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第24話 - 2 剣士から兵士へ ~メアリーの嘘

 ミランと入れ替わり、メアリーが入室する。トールが目覚めてから、まだまともに話していない。覚醒を、ミラン中将に知らせに出たからだ。


「メアリー、本当にありがとう!」 深々と、トールは頭を下げた。「メアリーが馬に乗せてくれなければ、僕は間に合わなかった。あの時に駆け付けてくれなければ、僕は死んでいたかもしれない」


「……私も、ただ夢中で」


 夢中とは、メアリーが参戦した場面である。休ませた馬を駆り、遅れてモスリナに入る。まさかと思って戦場に出てみれば、トールがボロボロになっていた。その後のことは、実はほとんど記憶に残っていない。初めて人をあやめた実感にも、乏しかった。


「あと、人を斬らせてしまって、ごめん。……大丈夫?」


「正直、あまり覚えてないし、実感もない。――でも! トールを守るために振った剣に、後悔なんてあるはずないよ!」


 メアリーの言葉に、曖昧さはなかった。心の底から、本気でそう思っている。騎士や兵士を目指している訳ではない。それ以前に剣の道で生きていく決意もなく、ただ才能と成り行きでメアリーの今がある。人をあやめるなど、考えた経験もないだろう。トールはメアリーに、自分にはない種類の強さを感じた。


「メアリーには、何か恩返しをしないとね。到底、返し切れるとは思えないけど」


「恩返しなんて、いらないよ。今回だって、お母さんは無事なのに、モスリナのために命懸けで頑張ったでしょう? きっとそれがトールの生き方なんだから、私への恩返しなんて小さな事を考えてちゃダメ!」


「……小さな事なんかじゃ」


「私はそういうトールが好きなんだから、ずっと変わらないトールでいてくれたら、それで十分だよ」


「分かった。でもメアリーが何か困った時は、絶対に助けさせて欲しい」


「うん!」


 メアリーの「そういうトールが好きなんだから」には、恋愛の意味が込められていた。しかしトールに、それと気付いた様子はない。メアリーに、二の矢、三の矢を放つ精神力は残されていなかった。……本当に、シンシアの言う通り鈍いんだから。


「あの、それと……」


「何?」


「勝利のおまじないも、ありがとう……。勇気が出たよ」


 トールは言い終わる前に、目を逸らした。


「う、うん……こうして勝って生き残れたんだから、効果があったのかな?」


 メアリーの顔も、分かり易く赤らんだ。冷静さを装うも、やや棒読みのようになってしまった。バツも悪かった。そもそも故郷に、そのような伝承はなかった。

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