第23話 - 6 獅子奮迅 ~目覚め
トールが目を開けると、見慣れた光景があった。トールが暮らしていた家、何も変えられていない自分の部屋だった。この窓から差し込む光は、午前中の早い時間だろうか。壁に貼り付けられた紙に「絶対合格! アラド=クラーゼン学院」の赤文字を見て、トールは可笑しくなった。
体が熱く、全身のあちらこちらが痛い。特に左大腿部は、燃えるような熱さと痛みであった。ひどく喉が渇く。枕元にあった水筒で、渇きを癒やした。人心地がつき、トールは目を閉じる。
色々な夢を見て、かなり感情を揺さぶられていた気がするが、内容は覚えていない。――多分、悲しかったり怒ったり嬉しかったりした。
ふと、トールに現実が落ちて来た。そうだ! メアリーは!? エディンバラ軍は!? 皆は!? 戦いはどうなった!? 急いて上半身を起こし、太腿の激痛に顔を歪める。見れば、手当で巻かれた布に、うっすらと血が滲んでいた。
一人、自宅で休まされているのだから、負けて酷い状況にはない?
窓の外に、何かが動いている。目をやると、トールはホッと安堵を浮かべた。目を閉じ、上体をゆっくりと寝かせる。そこには庭先で、花に水をやるメアリーの姿があった。
予告: 第24話 剣士から兵士へ
「過去、何度かあった小競り合いと言うには、規模が大き過ぎる。エディンバラと、大きな戦が始まるぞ」
トールは、深く頷いた。エディンバラだけではない。他国の利害が絡んで戦禍が拡大すれば、複数の国と国が争う巨大な戦争にもなり得る。今、その大戦への一歩が踏まれているのかもしれない。
♪ この作品を読んで、「面白い!」、「続きが気になる!」、と感じてくださった方は、下の「☆☆☆☆☆」から、応援をお願いします。
ブックマーク、ご感想なども、とても嬉しいです。