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第4話 - 3 トールの初デート? ~トール、デートか否かで葛藤する

 とんでもない、お洒落空間だ! トールの第一印象は、正に田舎者まる出しのそれだった。ハイセンスな調度品に彩られた店内は、トール地元の教会を何倍も豪華にしたよう。礼装のような衣服をまとったウェイターが、品良く応対をしている。紅茶を入れたカップには金色で模様が描かれ、壊してはいけないと緊張を強いられる。


 先月オープンしたばかりのカフェは、上品めな老若男女で賑わっていた。トールの主観での場違い感は半端ないが、紺ブレザーの制服のお陰で、外見上は助けられている。


「……この店、高いんじゃないか? やっぱり僕も出すよ」


「平気よ。お茶とお菓子くらいなら、大した事はないわ。……それに、オドオドし過ぎ! 一緒にいる私が恥ずかしくなるから、落ち着いてちょうだい!」


 隣の席のお上品なマダム達から、クスクスとした笑い声が漏れる。「あらあら、何て初々しいカップルさん」、「青春ねえ」。


「お待たせしました。スイカツリーです」


 テーブルに、話題のスイーツが運ばれて来た。小麦粉を揚げたスティックが立てられ、西方の果物・スイカ、バニラアイス、生クリームでデコレーションされた、映える一品である。これを二人で、フォークを突いて食べる。


 男が一人で食べるのは恥ずかしく、女子と二人で食べるのは、もっと恥ずかしい。女性に免疫がなく、デート経験すらないトールにとって、このミッションはなかなかのハードルだった。


 と、そこでトールが気付く。これは、デートなのでは? いや、デートというのは、正式に恋愛関係として交際するか、もしくはその交際を延長線上に見据えて行うものだ。断じて、稽古に付き合ったお礼という状況に対して、当て嵌められる単語ではない。


 いや、しかしこの状況は、客観的にはデートにしか見えない。ここまでデートっぽいのであれば、やはりそれは、関係性とは無関係にデートなのではないか? これをデートと認定したなら、男女交際歴はゼロでも、デート経験ならアリの人になれる。ステップとして考えるなら、デートをした人間になっておくべきなのではないか?


 トールの頭は完全に舞い上がり、デート認定の葛藤に入ってしまった。すると急に、シンシアを異性として意識し始める。白い肌、肩までの淡く青い髪。同じ色をした大きな目は、やや吊り上がっている。普通に、女性としてカワイイ。


「ねえ」


「はい!? 何でしょう?」


 トールの「はい!?」が、裏返った。


「一つ、訊きたいんだけど、良いかな? 困るなら、困るとハッキリ言ってね」


「隠し事とかはないから、大丈夫だと思うけど。何?」


「……あなたの高速剣、異能よね?」


 剣士にとって、自分の手の内が知られるのは、場合によっては命に関わる。だから異能持ちは、詳しくその中身を明かさないのが一般的だ。仲間や教師であっても、その詮索は禁忌という程ではないが、マナー違反とされている。


 シンシアの空中浮揚も、その詳細な内実までは明かされていない。


「ああ多分、異能だと思う。あの高速剣だけ、感覚が違うんだ」


 トールは自分自身で高速剣とは呼んでいなかったが、そこはシンシアに合わせた。実は心の中で『トール・ハンマー』と名付けている事は、出来れば言いたくない。特定の年代でかかる、よく言われるあの病気のようで恥ずかしい。


 正直に、トールは異能について語った。稽古中に、何の前触れもなく得られたもの。空間を圧縮する感覚。上段から真下に振り下ろす限定。発動中は、肉体感覚がなくなる。など、空間の部分については、シンシアにはよく理解できない。説明したトール自身の理解も、感覚的なものだ。


 トール・ハンマーは、客観的には、とんでもなく速く凄まじい威力の上段斬りだ。シンプルそのもので、隠さなければならない要素もない。上段斬り限定なのも、早い段階でバレる話だから、勿体ぶって隠していても仕方ない。


 今度、私にも打って見せてよ! と言おうとして、シンシアは止めた。二回、見た限りではあるが、あれはヤバい。


「……ところで」シンシアの顔が、シリアスになった。「あなた近頃、女の子に人気よね?」


「そうかな?」


 とりあえず、トールはとぼけておく。正直、その自覚はあるのだが、まだ女の子にモテているのを自覚している自分を外に開示できない。それはとても痛い、嫌なヤツに思えてならないからだ。


 シンシアはそれとなく、トールに気になる女性がいるのか探りを入れた。隣の百戦錬磨のマダムからすれば、あからさまも良い所ではあるが、トールにはそれとなくで通用した。特に誰もいないと知り、シンシアはホッと胸を撫でおろす。


 では、自分自身はトールに対してどうなのか? となると、シンシアもよく解っていない。元々、付き合おうという気はなかった。しかし他の女性が寄ってくると、嫌な感じがした。多分、一般的には「気になっている」という気持ちなのだろう。でもこうしてトールと過ごしている時間は、とても楽しい!


 まあ、距離も縮まったと思うし、こんな感じでとりあえずは良いか……。シンシアはここでもっとも楽な選択肢、保留を選んだ。気が抜けて、自然と穏やかに笑む。トールにはこの表情が、今日一で魅力的に感じた。


 よし、シンシアには悪いが、今日は初デートに認定しよう! と、トールの覚悟?も決まった。


予告: 第5話 獅子王杯、初戦


 ケヴィンが構えを解き、笑んだ。右手でクイクイッと、「来い!」のジェスチャーを送る。その表情と仕草から、「ほら、どんなもんか見てやるから、とりあえず掛かって来い」という意思まで伝わってきた。



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