第23話 - 3 獅子奮迅 ~大鎚と剣
「……何だ、アイツは!?」
ロメロは、トールの存在に戦慄を覚えた。おそらく彼が現れなければ、この戦は決している。ミラン中将を討たれ、オーシア兵の士気は著しく低下。城門前を、このように持ち直される事態は起こり得なかった。そして防衛線の一角を文字通り破壊され、現在の混戦を招いた。
この状況は、大勢において好ましいとは言えない。エディンバラ優位に変わりはないが、敗戦の目も出てきてしまった。
あの少年を、止める! ロメロが動き出した瞬間、遠目に数人の弓兵が反応した。さすがに対策もするわな……と、意図を察する。
異能『原始の威圧』は、空間内にいる者に無差別に発動する。だから行使する瞬間は、味方は側から離脱する。解ってしまえば、対応の仕方はある。要は、その動きを見て一緒に離脱すれば良い。後に残されるのはただ一人、無防備に立つ自分だけだ。
なら、それはそれでやり様はある。ロメロは自ら、乱戦に身を投じた。異能を警戒してオーシア兵の気が逸れるのは当然として、エディンバラ兵の動きまで悪くなる。チッ! と、ロメロは舌打ちした。
――威勢よく暴れる、女兵士がいる。体格に似合わぬ大鎚を振り回し、エディンバラ兵をなぎ倒しながら近づいて来る。お目当ては、自分のようだ。指揮官同士の一騎打ち、それはそれで熱いじゃないの!
剣と大鎚との戦いは、極めてシンプルである。速度の剣と、威力の大鎚。大鎚は戦場において、防御装備を打ち破るために存在する。まともに当たれば鎧や兜は陥没し、中身にも致命的なダメージを与えられる。だが軽装の兵を相手にするには、その威力は過剰となる。互いに必要十分な殺傷力を備えている以上、速度に勝る剣に優位性がある。
だがこの女兵士は、不自然なほどに大鎚を軽々と扱っている。見掛け倒しの軽量化か? という疑いは、打ち倒されたエディンバラ兵の姿が否定した。
剣撃範囲内に入らんとする瞬間、踏み込み、ロメロは刺突した。大鎚に下から払われ、軌道が大きく逸れる。重い……上に速い! !? 眼前に迫る大鎚を、ロメロは身を屈めて躱す。大鎚で、剣と同等の速度。これは厄介だ。
エマは、勝負を急いでいた。雑な大振りの連続にも見えるが、ロメロに反撃の機を与えない。……自分が戦闘に集中していては、全体で指揮を出す者がいない。出来れば、あの戦闘不能に陥らされる異能を出させたくない。またエマの戦いには、ある事情で時間の制限があった。
異能、『減重力』。肌に触れる物に対し、かかる重力を三分の一程度まで弱められる。エマは大鎚の操作に、繊細な重力調整を施している。重さを支える、下から上に動かす際には重力を減らす。一方、上から下に振り下ろす際には、減重力を解除する。
エマはこの闘術を、研鑽の積み重ねによって磨いてきた。だが精密な重力調整には、相応の集中力を要する。動揺や疲労によって乱され得るもので、実戦投入には不安が残されていた。
その焦りは、攻防を通じてロメロにも伝わった。いくら速いとは言え、大槌は振ってぶち当てるだけの道具。予備動作も大きく、捌き切れる範囲ではある。時間の経過を嫌がるのなら、その嫌がらせをしてやろう。
――トールは乱戦の中、ロメロとエマの対峙に気付く。敵味方をかいくぐり、エマに近寄る。
「加勢します!」
ロメロはニヤリと、口を歪めた。この二人なら、多少の犠牲が出ても勘定が合う。
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