第23話 - 1 獅子奮迅 ~小部隊、突撃
オーシア兵の中にあって、トールは存在感を示していた。他の兵との連動は利かないものの、個の力は一兵卒というレベルにはない。局地的に一対一の状況となれば、まず負ける事はなかった。その姿を見て、二人のオーシア兵が自主的に補助に入った。死角を守られ、トールに自由が与えられた。
――トールは、空気の重さを感じていた。命のやり取りの場にいる一人一人の感情が、空間にうごめき圧縮されている。少しでも脅えて委縮すれば、一瞬にして命を刈り取られそうだ。通常より、疲労が溜まっていくのも早い。
戦場で、初陣の兵士が死ぬ確率は高い。オーシアもエディンバラも、幅広い年齢層で初陣の兵士が多い。その浮足立った狂乱が、トールの心を乱そうとする。
「うわぁぁぁ!!」
一人、若いオーシア兵が突撃をかけた。敵に何一つ損傷を与えられず、あっさりと返り討ちに遭う。くし刺しとなり、前方に倒れ込んだ。作戦でも何でもない。ただ、精神的な圧力に屈しただけだ。その自分とも隣り合わせの姿に、トールは冷静になった。
巨石の前に、エディンバラが防衛線を張り直そうと動きだす。これを完成されてはまずい。エマは防衛線が完全に整う前に、中央突破での分断を指示。その6人の小部隊に、トールも加わった。
トールはエマに、大槌を借り受けようと申し出る。
「貸してやっても構わないが、どうするつもりだ?」
「僕が先陣で、盾兵を潰します。その防衛線の穴を、後陣で突破してください」
何を言っているんだ、この小僧は? エマは訝しんだ。トールの表情からは、確信と覚悟が伺える。自信過剰の勘違い野郎……だが、既に人並以上にやれるのは知っている。ミラン中将を救った存在に、今は乗ってみてやるか。
「了解した!」
続いて小部隊、全員に告げる。
「このミラン中将を救った英雄が、今度は防衛線を潰して突破口を開いてくれるそうだ! 詳しく聞いている時間はない。トールが空けた穴に突っ込め!」
エマの選定した小部隊に、この期に及んで疑問を挟む者はいない。トールが穴を空けると言うなら、ただそれを信じて動くだけだ。トールは彼らに深く頷き、「信じてくれ」という意思を送った。
――防衛線を敷くエディンバラ兵は、突撃してくる小隊を確認した。盾に身を隠すようにして、重心を落として身構える。ここで受け止めれば、周囲の兵で包囲殲滅できる。普通に考えれば、この攻防は自軍の優位にある。先陣を走る赤髪の少年の存在は、不気味ではある。だがその細っこい体で、大槌など扱えるのか?
赤髪の少年は大鎚を振りかざし、大きく跳躍した。馬鹿め、そんな力任せが通用するか! トール正面のエディンバラ兵は、盾を上にして衝撃に備える。受け止め切って、この槍でくし刺しにしてくれる!
トール・ハンマー!
高低音が入り混じった、凄まじい破壊音が轟いた。大鎚の下で、グチャグチャとした金属と一緒に、数人のエディンバラ兵が肉塊と化した。
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