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第22話 - 5 戦場に立つ ~トール、戦場に立つ

 赤髪の兵士――トールは、ミランを庇うようにロメロと対峙した。その空気で、この男が最も強いと判る。


「この……っ!」


 アトラス兵の一人が、槍をトールに突き立てた。トールは半身でかわすと同時に踏み込み、喉元を貫く。聞きたくないにごった苦鳴に、トールの心がザワつく。イラっと来たのは、心が沈みそうになった抵抗だ。


 その槍を奪い、トールはロメロに投擲した。難なく、剣の腹で打ち落される。不意はつけたはずだが……笑ってやがる! この人は強い!


 突如、現れた強敵に、周囲のエディンバラ兵は動かず沈黙する。


 ……大槌おおづちを拾い上げ、ミランは立ち上がった。


「赤髪の坊主、助けられたぞ……」


 眼光は弱く、足元はおぼつかない。絞り出された声も、戦える状態ではないと示していた。


「閣下を守れ!」


 気付いたように、オーシア兵がミランの前に出て壁となった。両脇を支えられ、ミランは半ば強制的に後退させられる。


 一目見て、トールは戦況を把握した。城壁の一部が突破され、内側から城門が破られようとしている。ここで負ければ、モスリナは終わり。つまり今が、戦いの正念場だ。


 小隊の一人が、トールに近寄る。


「少年、感謝する。あの男は妙な力を使う。どういう訳か、兵士が戦闘不能にされる。見たところ、空間で作用するらしい。……気をつけよ!」


 トールは、黙って頷いた。……気を付けろって、どう気を付ければ良いんだ? 空間で作用するなら近寄らなければ済む話だが、それは敗北と同じだ。弓兵に対しては、周囲を屈強な兵が固めて警戒している。


「……ヤツが異能を出す直前に、エディンバラ兵が離れていく。お前もそれに合わせろ!」


 なるほど、一定の空間内にいる者すべてに発動するという訳か。敵の仲間がそれを教えてくれるなら、対応はできそうだ。


「モスリナ出身のトールです! 今から戦列に加わります。指揮をされる方は、指示をお願いします!」 


 トールの判断は賢明である。先程は奇襲が上手く行っただけで、これは集団戦だ。一人で勝手には動けない。


 後方から、大槌おおづちを構えた兵士が並び立った。さして大柄とは言えない女性で、装備とはミスマッチに写る。


「私は、エマ中佐だ。今から私が現場の指揮を取る。子供は引っ込んでろ! と言いたいところだが、加勢に感謝する。見ての通り、状況は最悪だ……。皆、城門を取り戻すぞ!」


 エマのげきに、オーシア兵たちが「オー!」と応える。トールも一拍遅れて、「オー!」と言ってみた。トールは今、初めて戦場に立った。

予告: 第23話 獅子奮迅


「このミラン中将を救った英雄が、今度は防衛線を潰して突破口を開いてくれるそうだ! 詳しく聞いている時間はない。トールが空けた穴に突っ込め!」


 エマの選定した小部隊に、この期に及んで疑問を挟むものはいない。トールが穴を空けると言うなら、ただそれを信じて動くだけだ。トールは彼らに深く頷き、「信じてくれ」という意思を送った。





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