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第22話 - 4 戦場に立つ ~歓喜のすぐ後に

 世界が白くなった。網膜が捉えている光を、鼓膜の振動を、脳が認識しない。肌の感覚は曖昧で乏しく、姿勢すら不明瞭だった。自分が何者で何をしているのかも解らず、ただ何となく自分が存在している感覚だけは残された。


 白い世界で、ぼんやりと異物を認識した。それは上方から下方へと、自分に向けて動いていた。危険だとは思わなかった。しかしそれは危険であると、理由は解らないが知ってはいた。……だから多分、この右手を振り上げるべきなのだろう。


 ガキン! 激しい金属音と手に響く重い感触で、ミランの世界は色を取り戻した。大鎚おおづちで、エディンバラ兵の剣を受け止めている。


 ミランは、大きく体勢を崩した。肉体が硬直し、力が抜けてしまう。明らかに、自分は恐怖している。だが決して、目の前の敵にではない。命のやり取りにでもない。周囲の状況にも、自身の思いの中にも、これ程までに恐怖の対象となる存在はない。ただただ無意味に、肉体がすくんでいる。


「この短時間で、よく戻って来れたな!?」


 ロメロは感嘆した。『原始の威圧』の前には、精神力も戦いへの覚悟も関係ない。逃れられない死に肉体が諦め、生命維持機能すら滞らせる。白濁はくだくとした意識の中、迫り来る死を避けようともしない。なぜなら既に、死んでいるのと同じだからだ。近接していたオーシア兵は、既に全滅。おそらく平穏の中、唐突な死を受け入れたであろう。


 だが覚醒したとは言え、万全とは程遠い。異能を持ってしても思い通りにならない肉体に、ミランは防戦一方となる。


 後退する足がもつれ、ミランは転倒した。大鎚おおづちが手から離れる。


「うわぁぁ……」


 豪傑とは思えぬ、弱り切った悲鳴。エディンバラ兵は、とどめの刺突を心臓に向ける。


 いくらロメロの異能が前提にあるとは言え、ミラン中将の価値は大きい。そのエディンバラ兵は、幸運な役回りに歓喜した。どれほどの報奨と名誉が、待ち受けているだろうか? 


 ――首に冷たい感触を覚えた次の瞬間、視界がぼやけ暗転した。そのエディンバラ兵は、意識を閉ざした。視界の片隅に赤髪の兵士が跳び込んで来るのが見えた気がしたが、それと認識する時間はなかった。

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