第22話 - 2 戦場に立つ ~寡兵の突破
ロメロ少将は、後方より突撃する小隊を確認した。20人規模と寡兵であるが、体躯も良く、ただ走る姿だけで精鋭部隊と察せられる。手にはそれぞれ、大鎚、長剣、槍が装備される。エディンバラも大柄の盾兵を揃え、衝突に備える。無理にやり合う必要はない。ここはただ、抜かれさえしなければ良い。
小隊が、防衛線に激突した。盾などお構いなしに、大鎚を力任せに振るう。エディンバラの最前列はバランスを崩し、防衛線が乱れる。体勢を崩した何人かの兵は、大鎚の後に控える剣と槍の餌食となった。
この大一番で出てくるだけあって、さすがに強い! ロメロは感嘆した。
「怯むな! 中央を固めろ!」
戦争には、部分的にこのような状況が起こる。敗戦濃厚になった少数の兵が、燃え尽きかけたロウソクのように最後の力を発揮する。一方、勝っている側には緩みが出る。死にたくないという気持ちが先立ち、どうしても気迫で劣る。
だがそれは、あくまでも部分的、一時の優勢に過ぎない。元々、戦況全体を覆せるような代物とは違う。寡兵は、あくまでも寡兵。瞬発的な強さなど長続きするはずもなく、疲労は必ず訪れる。その体が止まったところで、ゆっくりと始末すれば良い。
さて、そろそろ勢いが落ちてくる頃……と、一人の兵士がロメロの目に留まった。もう兵士としての絶頂は過ぎているであろう中年兵、その動きが衰えない。むしろ時間の経過とともに、強さも速さも増しているように見える。一人、想定外の傑物がいた!
――ミラン中将は、高揚の中にあった。圧倒的に不利な戦況にあっての突撃など、何十年ぶりであろうか? 体がキレる。腕にずっしりと来る大鎚の重さ、盾にぶち当てる、鎧や兜を圧砕する、肉体を蹂躙する感触が心地よい……。自分の判断に戦術的、戦略的な正しさなどなく、単にこうしたかっただけでは? と、ミランは思った。
だが今は、全てがどうでも構わない。灼熱の時間を、存分に楽しもう。願わくば、結果として勝利のあらん事を……!
異能、『継続される最大出力』。通常であれば、全力での肉体操作は10秒も持たない。この異能は、その数秒を肉体が破壊されるまで継続できる。
その異様さに、対峙するエディンバラ兵も気付いた。
「……何だ、このバケモノ」
一人のエディンバラ兵が、一歩、右足を後退させた。
「おい、馬鹿……」
ぶつけられた後ろの兵が、バランスを崩してよろける。ミランは一足を跳び、その綻びに大鎚を振り下ろす。二人の頭部が、同時に粉砕される。……周囲の兵たちは、戦意を揺るがした。その一瞬の心の隙によって、彼らは容易く小隊に刈り取られた。
ミランとミラン率いる小隊は、防衛線を突破した。彼らの目に、巨石が大きく写し出された。
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