第22話 - 1 戦場に立つ ~ミラン中将の決断
「やめろー!」
オーシア兵のどこからか、悲痛な叫びが響いた。城門を塞ぐ巨石は、既にエディンバラ兵の制圧下にあった。杭を使ってテコの原理で浮かせ、縄を張り、複数人で引いて行く。巨石は大きく揺らぎ、少しずつではあるが確実に動かされていく。
「へっ! 止める訳ねーだろ!」
「ここに来るまで、俺たちが何人、犠牲になったと思ってるんだ?」
勝利を目前に控えたエディンバラ兵から、嫌らしい笑みがこぼれる。
城門前は、既にエディンバラ兵に防衛線を張られ、そう易々とは突破できない。また前線に張るロメロ少将の存在が、オーシア兵を恐怖させていた。階段の中ほど、城門前、二度の単騎特攻でやられている。周囲の兵は無力化され、無抵抗にエディンバラ兵に刈り取られた。盤面は、もう完全に詰みに近い状況にあった。
複数個所で展開される城壁の攻防も、激しさを増していた。これではとても、城壁前に戦力を送る余力がない。オーシアは攻城塔の数機を着火させて無力化に成功したが、この戦果にもはや戦術上の意味は薄い。
モスリナ常備軍最高指揮官:ミラン中将は、決断を迫られていた。
「市民の避難は、おおむね完了しています。ここはモスリナを放棄して、次戦に雪辱を期すべきかと」
副官の進言は、常識的には正しい。城門を破られ、敵の大軍に侵入を許しては勝ち目が薄い。ここはモスリナを明け渡し、兵力の温存を図るべきであろう。しかしミランは、決断を躊躇した。城門前を奪取し時間を稼げば、増援部隊も到着する。不利な情勢ではあっても、まだ絶望ではない。
「俺が出る。もしも俺が敗れるようなら、お前が撤退の指揮を取れ。良いな?」
ここでミランは、最後の賭けに出た。副官は何かを言いかけ、承諾した。
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