第4話 - 2 トールの初デート? ~シンシアの異能
放課後の稽古場は、自主練習の場として公開されている。使用に当たって届け出の必要もなく、各々が好きに自分の課題に取り組める。当然、事故などは自己責任だ。トールとシンシアの他には数名程度で、スペースには十分なゆとりがあった。
「トール、私の攻撃を受けてみてくれる?」
「解った。僕は攻撃せず、受けに専念すれば良いんだな?」
「ええ、お願い」
一呼吸を置いて、シンシアはトールに突進した。真正面から突っ込むと見せて、鋭角に右に流れる。横薙ぎに、膝元を狙う。トールはこれを、バックステップで躱す。間髪入れず、シンシアが追う。次の一撃は、剣で受け止めた。
連撃中、シンシアは一歩も地に足を付けない。空中を蹴って方向を変え、通常では有り得ない角度とタイミングでの剣撃を見舞う。シンシアの異能、空中浮揚に拠るものだ。宙にホバリングしながら高速で小刻みに動く様子は、なるほど蜂を連想させる。
だが、2分間に及ぶシンシアの高速連撃を、トールは難なく受け切った。余裕で躱せるものは全て躱し、そうでないものは剣で受け、捌く。傍から見ても、攻撃が当たりそうな場面すらなかった。
シンシアは、素直に驚愕した。基本に忠実な、確かによく知るトールの受けだ。しかし、反応スピードとバランスが以前のそれではない。初めて見せる剣筋も、難なく対応された。
「ありがとう、トール!」
シンシアは笑った。その笑顔には、悔しさも何の含みもない。
「率直に教えて欲しいんだけど、貴方から見て、私には何が足りない?」
トールは、返答に困った。シンシアのスタイルは彼女独自のもので、比較できる人物がいない。しかし、その上で挙げるなら……、
「シンシアの異能は確かに凄いんだけど、僕からは、それに頼り過ぎているように見える。普通の技術を上げていかないと、いくら特殊な力が凄くても、上のレベルでは通用しないと思う」
!?
シンシアは、言葉を失った。確かに異能を抜きにすれば、自分の剣術ははるかに見劣りしたものになる。ここに来て、異能頼みの限界を感じていたのは事実だった。上には常にベルゼムの存在があり、シュヴァルツのメアリーを相手にしても、何もさせて貰えなかった。初見で戸惑わせはしても、そこ止まりだった。
このまま異能を頼りにしても、きっと伸び悩むだけであろう。異能と通常の剣術との掛け算において、剣術の数値が小さいのだ。それをハッキリさせたくて、トールに声をかけたのかもしれない。
フウッと、シンシアは息を吐いた。
「解った。あんなに完璧な受けを見せられたら、受け入れるしかないわね……。明日からまた、心機一転で頑張りますか!」
「えっと、でも僕の言うことを真に受けないで、一応、ゴードン先生にでも確認してもらえると、安心なんだけど……」
「フフフ……」
先程までの達人のような人は、どこに行ってしまったのだろう? いつものトールで、安心する。
その後、小一時間ほど、二人は基本的な型練習を繰り返した。異能を抜きにすると、トールとの差もより浮き彫りになる。
「今日は、本当にありがとう! じゃあ、行くわよ。お礼に奢ってあげる」
「え、奢るって、何を?」
「さっき、誘われていたカフェよ。……行きたかったんでしょ?」
シンシアは、小首を傾げた。一瞬、トールの胸が高鳴る。別にそういう訳ではなかったのだが、トールは無言でうなずき、承諾した。
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