第21話 - 4 攻城戦2 ~トール、母親に叱られる
トールは行く先に、人の集団を捉えた。老若男女が混ざり、規模は百人ほどだろうか。牛馬と、それに引かれる荷車なども確認できる。状況から、モスリナから避難する人々と察せられた。
「トール!」
集団から女性の声。一人、飛び出して来た姿に、トールは破顔した。
「母さん!」
そこには懐かしい、約1年ぶりに見る顔があった。トールと同じ赤髪に童顔、心労からか、少しやつれて見える。
「何しに来たんだい? こっちは戦争が始まったよ!」
「だから、急いで来たんだよ! 母さんや皆を守ろうと思って」
母は喜びとも呆れともつかない、複雑な表情をした。
「戦争に飛び込んで、あんた一人で何が出来るっていうんだい? 考えなしに突っ込めば良いってもんじゃないよ」
「そうかもしれないけど……」
トールは、言葉に詰まった。母親の言うことは、常識的に正しい。トール一人が駆けつけて、戦況がどうなるものでもない。
「そうだ! モスリナはどうなってる!?」
母は、殆ど何も知らなかった。ただ戦争が始まるからと急いで準備をして、今ここにいるという状況だ。周囲の人も、同じだろうと言う。
「だいたい、アンタはいつも思い付きで行動して! 近所のおじさんにちょっと筋が良いって褒められてその気になって、「僕は剣士になる!」って飛び出して行って、クラーゼンなんて名門、絶対に無理だと思ったら、なんとまあ合格! それで自信をつけたのか知らないけど、戦争に顔を出そうっていうんだから、呆れたよ! この子には!」
完全に、母にスイッチが入ってしまった。我が子に募る思い、戦争で街から逃げる状況で、妙な興奮状態にある。
「お父さんだってね、アンタを守ろうって戦って死んだんだ。そのお前が、わざわざ危険な目に遭おうとするんじゃないよ! 子供のくせに……」
? 母の目には、涙が浮かんでいた。戦争に駆け付ける我が子の姿に、夫の姿を重ねずにはいられなかった。
「カヲさん、先に行くぞ?」
集団の一人、荷車を引く男が、母・カヲに声をかけた。トールも、子供の頃から知る馴染みの顔だ。
「トール、久しぶりだな! 獅子王杯では凄かったそうじゃないか!」
トールは、照れ笑う。
「はい、お久しぶりです。相変らず、お元気そうで何よりです」
「ああ、今度はゆっくり帰って、夕飯でも食べようや!」
「ええ、是非!」
「じゃあカヲさん、先に行くから、すぐに追いついて来なよ」
男は荷車を引き、集団の流れに戻っていった。
「トールも一緒においで。早めに避難を開始したから、みんな無事だから……」
少し、トールはモスリナの方に顔を向け、沈黙した。
「母さん、街にはまだ、事情があって逃げられない人がいるかもしれない。少しだけ、街を見てくる」
「ちょっとアンタ……」
もういい加減に……と続けようとして、母・カヲは止めた。この顔をした時の夫とトールは、もう何を言っても無駄だった。まったく、うちの男たちは……。
「分かった、行っといで。但し、少しでも危なくなったら逃げるんだよ。分かったね?」
「ああ大丈夫、無茶はしないから。母さんも、気を付けて!」
再び、トールは走り出した。
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