第21話 - 2 攻城戦2 ~異能、『原始の威圧』
跳ね橋の出口周辺は、一進一退の攻防を続けている。エディンバラ兵は、オーシアの防衛線を突破する以前に、その防衛線を後退させたい。突破に必要な兵力を、城壁上に展開する為である。一方、オーシアの思惑はその逆。防衛線を狭めて、対峙する兵力を減少させたい。数十センチを広げては、押し戻される。押し戻しては、また広げられる。その細かい繰り返しに終始していた。
そんな中、エディンバラ兵が不可解な動きを見せた。「ロメロ少将が出るぞ!」の一言で、全てのエディンバラ兵が攻城塔内に撤退。オーシアの現場指揮官は、状況を判断できない。防衛線にある盾兵も、ただ立ち尽くした。
一人の兵が、中央の攻城塔から城壁に降り立つ。一見して冴えない風体であるが、現場指揮官は「こいつはヤバい」と直感する。これが、ロメロ少将?
「殺せー!」
現場指揮官の絶叫と同時に、盾兵が揃って前に出た。一斉に、槍を突き立てる。その時、異変が起こった。……足が前に出ない。盾と槍を持つ手に、力が入らない。目がかすみ、思考が白む。ただその中にあって一つだけ、恐怖だけは明確だった。
異能、『原始の威圧』。あらゆる生物が共有する集合的無意識内にある、死の記憶。圧倒的強者によって、命を絶たれた弱者の感覚を想起させる。抵抗も逃亡も出来ずに死を確信した絶望感は、著しい運動機能と思考力の低下をもたらす。
中央に立つオーシア盾兵は、ただ呆然と眼前に迫り来る剣先を見つめていた。既に恐怖に支配された精神に、新たな恐怖はなかった。額に剣先が刺さり、骨の抵抗が突破される感触。オーシア兵はむしろ、死を恐怖の解放者として歓迎し、安堵した。
屠ったオーシア兵を、ロメロは力任せに蹴り飛ばす。
「アトラス隊!」
右手を上げると同時に、精鋭部隊が防衛線に突撃をかけた。『原始の威圧』を受けた前線は、ただ無抵抗に蹂躙されていく。
オーシア現場指揮官は、事態を把握できない。城壁上は、再び乱戦に持ち込まれてしまった。なぜ突如、前線が崩れたのか?
「立て直せ! 盾兵は陣形を組め!」
後方に控える盾兵が、防御壁を形成する。乱戦にあったオーシア兵は、その背後に隠れるように撤退した。
――前線が落ち着き、オーシア兵は一時の混乱から脱した。だがその目の前には、絶望に近い光景があった。押し込まれた防衛線の空いたスペースに、多くのエディンバラ兵が侵入している。城壁上にあって、オーシア兵は数的優位を失った。
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