第20話 - 3 攻城戦 ~トール、馬に乗れないのに馬を借りる
エディンバラ宣戦布告を受け、オーシアは急遽、モスリナへの増援部隊を編成した。先行して5000の兵を送り、後ほど準備が整い次第、必要に応じて更に増援を送る。
市民の間にも、エディンバラ宣戦布告・開戦の報は響き渡る。食料・生活必需品の買い占めや物価の高騰、モスリナへの支援活動の呼び掛けなど、敏感に慌ただしくなった。モスリナに親類や友人を持つ人は、その安否を確認する手段を求めた。
その報は、モスリナを故郷とするトールの耳にも届く。トールの決断は迅速だった。最初は志願で増援部隊入りを考えたが、できるだけ早くモスリナに入りたい。
厩舎に赴き、トールは後先も考えずに馬を借りてしまう。一日あたり20000ОKの持ち合わせはなかったが、そこは獅子王杯4強入りの威力で、快くツケが効いた。故郷で暮らす母親に、1秒でも早く会いたかった。
しかしトールは、馬に乗った経験がない。寮までは、見よう見まねで何とか帰って来れた。ただこの乗馬技術で、一日半はかかろうという距離を飛ばすのは現実的ではない。さすがに、トールも判断に躊躇する。
……無謀は承知の上で挑戦してみるか! と、決意を固めた頃、二人が来訪した。
「トール、その馬はどうしたの?」
シンシア、メアリーである。二人はあの一件以来、普通に仲の良い友人として交流を続けている。今日はエディンバラ宣戦布告の件で、トールと話をするつもりだった。二人は、トールから簡単に状況を説明される。
「そんなの無茶に決まってるじゃない! 馬を走らせられるようになるまで、早くても7日はかかるのよ? いくらトールでも、ぶっつけ本番で出来ることじゃないわ!」
シンシアに叱られて、トールはしょぼんとする。同時に、自分を悔いた。これまで他を優先させて、乗馬に取り組まなかった報いである。騎兵にならずとも、今回のような早く駆け付けるべき事態は想定できた。
「あの~」メアリーが片手を上げる。「良かったら、私が走らせるので、後ろに乗ってください……」
えっ!? と、トールとシンシアが驚く。トールは思いもしていなかったアイデアに対して、シンシアは男女のスキンシップ的なあれで。瞬時に、シンシアはそのどうでも良い思いを打ち消した。
「それは助かるけど、お願いして良いの?」
「はい、勿論です! ただお馬さんは、皆さんが思っているほど丈夫な生き物ではありません。二人を乗せてですから、そんなに長くは走れないと思います。だからお馬さんで行けるまで行って、あとは徒歩です。でもそれでも、最初から徒歩より早いはずです!」
トールとシンシアは、顔を見合わせる。「お馬さん」という言葉使いはさておき、トールは何故か、シンシアの許可が必要な気がした。
「私も、それが良いと思う」
この言葉に、もう余計な感情は含まれていなかった。「うん!」と、トールは力強く頷いた。
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