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第17話 - 1 トールに迫る暗殺者 ~民主主義の崩壊

 シンシアから聞いた話は、トールの記憶と整合性を欠いた。セイは八相の構えから、ただ普通に左胴を叩いた。しかしその直前、トールは上段を受けて弾くような動作を見せた。そこでシンシアは、外部からは解らない細かい駆け引きがあるのだと考えていた。


 トールの記憶では、右袈裟を受けて弾いた次の瞬間に、そこにあるはずがない刀身が飛んできて左胴を打たれている。シンシアの話と合わせると、右袈裟はトールだけに見させられた幻だ。そして刀身を弾いた感触もまた、幻という事になる。


 どのような技かは解らないが、これは厄介だ。現実と区別のつかない幻の刀身に、どう応じれば良いのか? そこでセイの残した言葉が引っ掛かる。「真実は一つとは限らない」、素直に解釈するなら、幻の刀身もまた真実であると取れる。


 実はこの時点で、ジョーカーと戦ったフレイの情報があれば、確証までは至らずとも、合算されて全ての察しが付く。しかし騎士団の一員ではないトールに、その情報の共有はされなかった。


「おい、トール!」


 授業中、講師が、考え事で呆けているトール感づいた。世界史を担当するキューウェル先生が、嫌味ったらしい口調で問う。


「大国ガロンの民主主義崩壊の理由と、それに対するトール自身の見解を述べ給え」


「はい!」慌てて、トールは起立する。「評議会議員が産業界と癒着し、不正が横行したこと。国民から支持を得ようと、政権が安易なばら撒き政策を繰り返した結果、国力が衰退し、軍部によるクーデターを招いた為です」


「大筋で、宜しい」


 案外、ちゃんと答えられて、キューウェルはやや不満げだ。


「ではそれに対して、トールの見解はどうかね?」


 少し、トールは考えて、


「はい、民主主義を機能させるには、最大の権力者である国民の資質が重要になります。公的な利益よりも個人的な利益を優先させる国民が権力を持ってしまったなら、民主主義の理念は達成されません。一気に完全に民主主義化するのではなく、国民に教育を施しながら段階毎に制度を成熟させていくべきであったと考えます。けれどその上で、優れた指導者による王政や帝政よりも優れているかは、個人的にはかなり疑わしいと考えます」


 キューウェルは、深く頷いた。


「うむ、私もおおむねで同意見だ。ただその資質に足る国民への教育など、非現実的と言わざるを得ない。王政の世襲でも同様だが、教養と知性のない愚か者を政治から遠ざけてこそ、政治の質は保たれるものだ」


 一瞬、教室が僅かにザワつく。この発言が、オーシアの国体である王政批判とも受け取れるからだ。


 トールは着席を許された。ジャミル=ミューゼルと馬車内で対話して以降、トールの政治への関心は高まっている。オーシアの敷く王政も、王に就く者の優れた資質が前提にある。もしも歴史上にあるような愚王を次代が招いたなら、自分は国に反旗をひるがえす革命の使途となるのだろうか?


 通常の授業が再開される。ふとトールは、このカリキュラムは、民主主義の芽を潰すのが目的なのか? と感じた。

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