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第16話 - 3 シンシアとメアリー、友達になる ~シンシアとメアリー、互いの思い

「あ、あの……」


 ベルゼムを目の前に、メアリーは固まった。何故、この結構強くて顔の怖い人まで、増えているんだろう?


「たった今、偶然、会ったんだよ。ベルゼム、戦ったから覚えてるよね?」


 今日のトールは、何だかとても面倒見が良い。自分が一緒の時には見せない顔に、シンシアは少しだけモヤッとする。


「あ、はい……。その節は、お手合わせ、お世話になりました」


 キョドっているメアリーの言葉が、微妙におかしい。


「こちらこそ。シュヴァルツにも貴方のような素晴らしい剣士がいるとは、驚きました。また何れ、どこかで剣を交えましょう!」


「はい、機会があれば……」


 正直、メアリーにはそのような武人的な精神はない。ただ強さ故に環境に流され、この立ち位置にいる。だからこういう、凄くやる気の人に対して、どう接して良いかが判らない。


 言うだけ言って満足気なベルゼムは、買い出しがあると立ち去った。これからどうする? という話になり、すぐに深刻な事態に直面する。剣術だと思い込んでいたクラーゼンご一行、特にトールとカリムは、圧倒的にお金が足りない。これでは、満足にランチもできない。


 一度、帰るタイムロスも、馬鹿にならないし……と考えていたところ、カリムが一計を案じた。


「よし、この場で稼ごう! 俺は賭け腕相撲、トールは……叩かれ屋でもやれよ」


「何だそれは? 叩かれるのは、普通に嫌だぞ!」


「お前は、避けて良いんだよ。お客さんに自由に攻撃してもらって、トールは避けるだけで攻撃しない。一回でも当てられたら、お客さんの勝ち。避けきったらトールの勝ち。面白いだろ?」


 トールは考えた。うん、まあ悪い案ではなさそうだ。慢心する訳ではないが、一般人の攻撃を避け切るくらいは難しくないだろう。


「解った。やるよ! ……シンシアはどうする?」


「私は持ち合わせがあるから、大丈夫よ。見世物になるのは気が引けるしね」


「はい、私も大丈夫です」


 元よりメアリーは、デートの予定なのでお金はある。


「よし、じゃあ始めるか!」


 こうしてショッピングモール内の広場に、突発的に腕相撲屋と叩かれ屋が営業された。ちょうど用意して来た木剣もあるし、準備は大きな紙で看板を作るだけで終わった。字はカリムが担当したのだが、意外にキレイでちゃんとした字を書く。


 価格は二人とも1000ОK(オーシアキッド)。負ければそのまま没収、勝てば三倍になって返ってくるシンプルな設定だ。確認も許可も取っていないが、怒られたら怒られた時だ。


 開始早々、興味をそそられた人たちが集まってくる。だがカリムの体格を見て、腕相撲は早々と断念する人が続出。これでは商売にならないと、急遽、「両手も可」を付け加えた。一方、トールの叩かれ屋は盛況になった。木剣で思いっきり人に斬りかかる機会など、人生にそうあるものでもない。全て避けられたところで、十分に楽しめる時間になる。


 ……。


 トールに注がれるメアリーの目に、シンシアの確信は深まった。もう、ハートでも飛び出してきそうな勢いだ。


「貴方、トールの事、好きよね?」


 ハッと、メアリーがシンシアを向く。まごまごと答えあぐねていると、


「まあ好きでもないのに、デートになんか誘わないか……」


「はい、あの、それでシンシアさんは?」


「私も好きよ」


「……そうなんですか」


 メアリーは、目を伏せてしまった。大人びた顔が、子供に見える。


「でも、付き合ってはいないわ。……それが訊きたかったんでしょう?」


「はい、でも……どうして?」


 メアリーは、目をぱちくりとさせる。


「トールって、恋愛に疎いのよ。貴方のデートの誘いを、稽古の誘いだと勘違いするくらいにね。それで私との関係も、煮え切らないってわけ」


「そう、なんですね……」


「貴方は、トールのどこを好きになったの?」


「カッコ良くて、カワイイところです!」


 突然、元気になったメアリーに、シンシアはやや面食らった。


「カッコ良くてカワイイ……? そうね、そう思う人の気持ちも、解らなくはないかな。……私はね、トールを尊敬しているの。貴方は強いトールしか知らないでしょうけど、入学当初は弱くてね。相手にもならなかった。それが地道に頑張り続けて、遂には獅子王杯で勝ち進むほどになって。でもそれを微塵にも鼻にかけなくて、ずっと穏やかで優しいトールのままでいてくれて。多分ずっと気になっていたと思うんだけど、気付いたら好きになってた」


 シンシアの語るトールに触れ、メアリーの気持ちは更に高まった。何となく想像していた以上の人間性だった。それと同時に、自分の思いを軽薄にも感じた。同じ時間を過ごしてきて、内面にも多く触れて互いを知り合って、その上でシンシアは好きだと言っている。自分のそれは、同じ好きでも種類の違う何かに思えた。


「どうして私に、その話をしてくれたの?」


「トールをここまで真剣に好きな女の子には、ちゃんとトールの事を知っておいて欲しいからね」


「……ありがとう」


「これから先、もしかしたら感情的にいがみ合うようになるかもしれないけど、今のところは仲良くしましょ? ね?」


 笑いかけてくれたシンシアに、メアリーは圧倒された。こんな子が側にいたんじゃ、敵わないかなと思った。


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