第16話 - 2 シンシアとメアリー、友達になる ~男3人で恋バナ
「お前ら、何やってるんだ?」
トールとカリムが覚えのある声に振り返ると、そこにはベルゼムがいた。
「おう、ベルゼムじゃねえか。女の子と買い物に来たんだが、俺とトールが飽きちまってよ、お姫様たちの帰還を待っているところさ」
「ほう、随分と色気のある話だな。ダブルデートか?」
ベルゼムの口から出てくるダブルデートが、トールには妙におかしかった。
「ダブルデートって感じでもないよ。剣術の稽古のはずだったのが、なぜか予定変更になってさ」
トールはまだ、事態を把握できていない。シンシアとメアリーが二人で話し合って、予定が変わったと思い込んでいる。
「それが聞いてくれよベルゼム、ちいと事態は複雑でよ……」
「おいカリム!」
カリムはトールとシンシアとの関係、自分のシンシアへの思いを説明した。この場合、ライバルとして勝負すべきか、応援すべきかの助言を求める。
「放課後の稽古にカリムも参加するようにして、距離を縮めたらどうだ? 仲良くなっていく過程で、自ずと結果は出るだろう。もっとも俺は、トールとシンシアはとっくに付き合っていると思っていたし、話を聞いた今でも時間の問題だと思っている。……ここに割って入るのは大変だと思うぞ?」
ベルゼムの見解は、至極、常識的で真っ当だった。こんなに恋愛話が通じる人間だったとは……と、トールもカリムも意外に感じた。人は見かけに拠らないっていうか、普段の言動にも拠らない。
「それはそうとベルゼム、お前はどうなんだ? 気になる女はいるのか?」
カリムの問いに、ベルゼムは怪訝な表情を浮かべた。
「女? 俺の恋愛対象は男性だが?」
「はい!?」
トールとカリムの驚愕の声が、シンクロした。
「変か?」
「……変ではないけれど、珍しいから少し驚いた」
「俺もだ。なんで今まで黙ってたんだ?」
「言う機会がなかっただけだ。さっき、気になる女はいるかと尋ねられて、初めて機会が出来た」
それもそうだなと、トールは思った。隠していなくても、わざわざ自分から言う話でもない。
「では性別を変えよう。気になる男はいるのか?」
カリム、順応早えーな! と、トールは呆れる。
「……絶対に敵わぬ思いだと知っているが、この胸に秘めている相手がいる」
「誰だよ?」
「……ゴードン先生だ」
!? 二人の驚きは、恋愛対象が男性だと知った時を軽く超えた。
「だから是が非でも獅子王杯には出場して活躍をし、恩を返したかった。無念だ……」
「それは……何だかゴメン」
「いやトール、こちらこそ済まない。女々しいことを言って、気を使わせてしまった。今の言葉は、どうか忘れてくれ。それとゴードン先生を煩わせたくないから、出来れば内密で頼む」
「ああ、勿論だ!」
トールは、しみじみと思った。人にはそれぞれの事情や、思いがあるものだな。トールにとってベルゼムは目標であり、少しだけ憧れの存在でもあった。どこか遠くに感じていた存在が、どこか身近に感じられる。
遠くに、メアリーとシンシアの姿が見えた。特に高身長のメアリーは、遠くからでも直ぐに目に留まる。二人で楽しそうに話している姿を見て、トールは、今日はこういう日でも良いな! と、初めて納得した。
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