第16話 - 1 シンシアとメアリー、友達になる ~4人で遊ぶわよ。良いわね?
――時は少し遡って、トール達がメアリーと合流した時点。
メアリーは、もう逃げ出したかった。もうすぐ、この場所にトールがやって来る。どう振る舞えば良い? 今日の恰好、気合を入れて可愛らしくし過ぎた? ちゃんと喋れず、変な人と思われたらどうしよう? やっぱり、ミイに付いてきてもらえば良かった!
トールをお見舞いして、デートに誘う。約束の場所に、今こうして立っている。この状況が、もはやメアリーにとっては奇跡に近い。トールの側にいる小柄でカワイイ女性。嫉妬で狂戦士化した上での敗北。このどん底から救ってくれたのは、親友のミイだった。
「ただ一緒にいるのを見ただけ? そんなんじゃ、判らないじゃない!」、「メアリー、あんたはスタイルの良い美人なの! もっと自信を持ちなさい!」、「と・に・か・く、自分から行かなきゃダメ! 学校も違うのに、どうやったら自然に関係が深まるって言うのよ?」と、ミイに背中を押されなければ、ただイジけて終わるだけだった。上手く行く自信はないけど、頑張るだけは頑張りたい!
雑踏の中、トールより先に目に入ったのは、大柄で岩のような男性だった。凶悪そうな面相が、子供のように笑っている。その前にトールと、……あの子がいる!!
メアリーは、この状況が理解できなかった。え、何で他に二人も?? この子を連れて来たっていう事は、彼女を紹介して諦めてもらうため? だったら、後ろの大男は何のために? え? え?
「メアリー、待たせたかな? 他にもいた方が良いと思って、二人、連れてきたよ。戦ったから覚えてるだろ? こちらがシンシアで、こっちのデカいのがカリム」
屈託なく、トールは笑った。……他にもいた方が良いって、何で? ダブルデートって事??
「おう、メアリー! この前は世話になったな。今日は、とことん付き合ってもらうぜ!」
ちょっと、何なの!? ダブルデートで、私とこの人がペア? あんまりなんだけど……。メアリーは泣きそうになった。まずい、ここで泣いたら自分が惨め過ぎる……。
「……ちょっと良い?」
何かを察したシンシアが、メアリーを連れて少し距離を取った。コソコソと話す二人を見て、不思議そうに顔を見合わせるトールとカリム。
「ねえ貴方、トールを剣術の稽古に誘ったの?」
フルフルと、メアリーは首を振る。それでシンシアは、全てを察した。メアリーは普通にデートに誘ったのを、トールが勘違いしたんだ。
どうしよう? シンシアは困った。ライバルを助ける義理はないけれど、この状況ではメアリーが不憫すぎる。
「分かった! 今日は4人で、普通に遊びましょ?」
「でもダブルデートで、カリムさんとペアなのは……」
「そんなんじゃないわよ! 普通に4人で、ね?」
「……はい」
とりあえず、話はまとまった。メアリーには、後で誤解の経緯を説明しておけば良いとして、問題はトールとカリムだ。シンシアは二人の前に立ち、腕を組んだ。これから私の言う事は絶対で、異議を認めません! という意思表示だ。
「今日の稽古はなし! 4人で遊ぶわよ。良いわね?」
「え、あ、遊ぶ? 何で??」
トールが首を傾げる。
「良いわね!?」
「はい」
……完全に、トールは気迫負けした。
「おう、俺は別に構わないぜ」
カリムも快諾。元よりカリムは、シンシアと出掛けるのに乗っかっただけだ。中身は稽古だろうと遊びだろうと、何だって構わない。むしろ遊びの方が、距離が縮まる可能性も高く歓迎だった。
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