第13話 - 4 トールの初陣 ~スペードの正体
ウィンザー邸・襲撃事件では、王立騎士団の責も問われる。現場最高責任者、副団長のロイズは、正式な処分が下されるまで謹慎処分を言い渡された。
当然、団員たちに納得はいかない。ウィンザー邸付きの衛兵隊長が、頑なに騎士団の邸内警護を拒んだこと。地下の侵入経路という、情報にない要因が大きく働いたこと。など、言い分はある。
しかし直接の護衛対象ではなかったにせよ、王立騎士団が付いておきながら、ウィンザー伯夫妻を殺害された事実は大きい。何らかの処分は避けて通れないと、ロイズ自身も団長のアイゼキューターも弁えていた。
一方、トールの存在は衝撃を与えていた。西方の壁から脱出を試み、トールに討たれた賊の正体は、逃走中の罪人であった。元憲兵隊、憲兵曹長の地位にあり、名はドラエフ。拷問を目当てに憲兵隊を志願した異常者で、常にやり過ぎるきらいがあった。
ある時、意図的に舌を切って喋れないようにし、拷問を継続していた手口が発覚。しかし憲兵隊員としての功績も大きかった為、相殺されて罪には問われず、処分は除隊に留まった。
ドラエフの凶行は、その矛先を一般市民に向けた。ドラエフに捕らえられた者は、絶妙に死なないように長時間の拷問を受け、最後には殺されてしまう。彼の中ではルールがあり、標的は犯罪者に限られた。しかし必ずしも凶悪犯という訳ではなく、小規模な窃盗やゴミの不法投棄など、些細なものも多く含まれた。
彼の犯行である事は、拷問時のあるクセから容易に判明した。以降、罪人として追われる身となったのだが、2年間も彼は消息を掴ませなかった。
ドラエフを討ったとあれば、その功績は大きい。また獅子王杯4強の実力を買われたとはいえ、トールはまだ学生の身である。純粋な戦力だけを考えても、ドラエフはそう容易い相手ではない。ここでトールの名は、王立騎士団を越えて、オーシア国中枢部にも知られるようになった。
この事件を受けて、ジャミル=ミューゼルは迅速に行動した。王立騎士団と私兵として雇われている衛兵とでは、前者が明らかに格上。殆どのケースで、騎士団の意向が尊重される形で話がまとまる。しかし、そのような法規範がある訳ではない。今回の王立騎士団を拒絶した件についても、法的に衛兵隊長の責を問う根拠はない。
同様のトラブルは、今後も起こり得る。いや過去にも起こっていたのだが、結果として問題にならなかっただけだ。そこでジャミルは、あらゆる集団と集団、集団と個人、個人と個人との組み合わせで、指揮系統の整備に着手した。現場指揮官と法の専門家とを集め、早急に法制定を目指す。
そしてその行動は、周囲のジャミルへの評価を更に上げた。自らの命が脅かされたにも関わらず、冷静にオーシア発展に繋げようとする姿勢に、彼を次期王に推挙する声が高まりを見せる事になる。だが評価が上がるほどに、彼の危険性が増して行くのも必然であった。
予告: 第14話 死の恐怖
「不利になっても有利になっても出てくるんだから、死の恐怖ってやつは抜け目ない」
と、ゴードンは笑った。けれど、生徒でそれを笑える経験の持ち主はいない。
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