第13話 - 3 トールの初陣 ~賢明な判断という免罪符
――書庫の床にある隠し扉を発見したのは、翌朝の事であった。本棚の底が開き、地下へと降りる梯子がある。地下室からは、西の林と結ぶ通路が発見された。これで賊の侵入経路も判明した。亡くなったウィンザー伯夫婦に確認は取れないが、執事、衛兵隊長、他、邸内の誰一人として、その存在を知る者はいなかった。
その知らせを聞き、トールは悔やんだ。明らかに、あの時の判断が間違っていた。部屋に閉じ込め逃げられる心配がないと、なぜ自分は決めつけてしまったのか? 闇に潜む敵を怖れ、賢明な判断という免罪符の元、誤った判断に流されたのではないか?
「お前は間違ってはいない。あの状況なら、俺でもそうする」
ヘラグは、明らかな苦悶を見せるトールの肩を抱き寄せた。その慰めは、本心だろうか?
「だいたいだな、トール、お前は見習いだ! ん……、見習い以下か? とまあ、そんな身分の分際で、一人前に責任なんか感じてんじゃねーよ!」
常識で考えれば、ヘラグの言はもっともだ。ジャミル=ミューゼル侯爵は健在だったとは言え、ウィンザー伯夫妻は死亡。衛兵は9人も殺された。騎士団では、負傷者が2人。ただその中にあって、敵はフレイが二人、ロイズ副団長が一人、そして……、
「……お前が一人、倒してくれたお陰で、俺たちはかなり助けられている。むしろ大功労者だ。胸を張れ!」
「はい……」
しかしトールは、その言葉を素直に喜べない。結果論ではなく、自分の判断は本当に正しかったのか? 安全な方に流れなければ、あの物音と気配から気付けたのではないか? いくら考えても、結論が出ない。
何れにしても、長い夜は明けた。帰路の護衛任務のため、トール他、王立騎士団はしばしの休息に入った。
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