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第13話 - 1 トールの初陣 ~初見殺し

 ヘラグとトールの元にも、笛の音と喧騒が伝わって来た。笛の音は、騎士団のものではない。何の合図かの示し合わせはないが、普通に考えれば、敵襲かそれに近い何かであろう。「どうしますか?」と、トールはヘラグの顔を伺う。


「俺がいく! お前はここに残れ!」


 トールは、瞬時にヘラグの思惑を察した。人を集めなければならない緊急事態であるのは確かだが、陽動の線もありえる。もしそうなら、一か所に人を集中させるのは愚の骨頂である。


「はい!」


「……だが、もしもここで何かが起こって手に余ると思ったら、その時は無理せずに引け! 良いな?」


 黙って、トールは頷いた。ヘラグは助走をつけ、壁を駆け上がる。頂点に手をかけると、腕の力で一気に乗り越えていった。ヘラグは特別にしても、「この壁、意味あるのかな?」と、トールは不安になった。


 一人、残されたトール。明らかに、鼓動が早くなるのを感じる。何が起こったのか判らない。今、自分がすべき事の明確な正解が判らない。というのは落ち着かず、焦りばかりが募っていく。虫の音ばかりが、妙に耳につく。


 数分ほどは、経過しただろうか。背後で小さくガリガリと音がすると、上方に気配。ヘラグかと思われたそれは、顔も含めて全身を黒く覆いつくした男だった。


「おや? こんな所に人が……」


 黒ずくめの男は、4・5メートル離れた地面に着地する。即座に、トールは抜刀した。状況とビジュアル的に、間違いなく敵だ。


 一瞬、スペードは考えた。このまま逃げても良いが、間近で背格好を見られているというのは、やや具合が悪い。とりあえず、殺しておいた方が無難だろう。しかし、まだ少年じゃないか。……これから希望に溢れる未来が待ち受けているというのに、運が悪い。


 スペードは、両腰から短刀を取り出した。斜に立ち、右を前に左を後ろに構える。応じて少年が、すっと刀身を頭上にする。キレイな構えだ。きっと道場では、さぞ優等生なのだろう。


 だが自分を相手に上段とは、実戦を知らない。そんなものは、一度、振らせてしまえば終わりだ。懐に入られた短刀に、二撃目は間に合わない。


「あの……!」


 少年が、口を開いた。


「どうした? 命乞い以外なら、少しは話を聞いてやっても良いぞ」


「この状況でお尋ねするのも変かとは思いますが、中はどうなっていますか?」


「ウィンザーは、夫婦であの世に旅立ったよ。ジャミルの方は知らねーが、おそらくは同じだと思うぜ」


 これから命を無くす身とは言え、まあ気になる所だな……。


 一瞬、トールの目に動揺が走った。無理矢理、平常心に押し戻す。


「ありがとうございます。貴方を倒して、すぐに向かいます」


 ほう、自信満々なようだ。夜盗風情とでも思って、見くびられているのか? ちょいとだけ、イラっと来るね。……まあ良い、早く片付けよう。スペードが、じわじわと腰を落としていく。左の踵に重心がかかった反動で、足を前に蹴った!


 間合いに入る手前で、スペードは右手の横薙よこなぎで牽制を入れた。そこで無防備になった頭を振らせ……、―――。


 頭部を中心から両断され、スペードの意識は途絶えた。

 

 スペードの思惑は、こうだった。無防備になった頭部で誘って、わざと振らせる。解っていれば、受けるのもかわすのも容易い。反転してかわしながら、左の短刀で脇腹を突き刺す。脇腹なら、咄嗟に反応しても防ぎ切れない。


 だが不幸にも、スペードはトールを知らなかった。


 トール・ハンマー! 初見殺し。


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