第12話 - 5 ウィンザー邸、襲撃事件 ~ジョーカー VS フレイ
「こっちが、本命でしょ?」
対峙する刺客3人に、フレイは微笑みかけた。剣は、鞘に収まったままだ。ウィンザー邸付きの衛兵たちは、全て笛の音のする方へおびき寄せられている。フレイ一人にこの場を任せたのか、それとも決まり事もなく、ただ考えなしの行動なのか。後者なら、終わったら説教だ。
3人の中ではやや線の細い男が、半歩、前に出た。
「大人しく投降するなら、命までは奪いません。標的を始末したら、私たちは立ち去るとお約束します」
声からして、少年だろうか? 身振り手振り、いかにも上品めかした喋り方。努めて紳士を気取っているように見えた。
……狭い空間を想定して、3人とも短剣を装備している。今、口を利いた少年は曲刀だ。武器の形状と構えで、おおよその戦い方は知れる。
「3人掛かりなら、勝てるとでも?」
……とでも? に殺気を感じたジョーカーは、反射的に跳び退いた。逃げ遅れたダイヤとハートが腰から両断され、真っ二つになって床に崩れ落ちる。まだ息のある上半身は頭部を貫かれ、完全に沈黙した。
「全員、今ので終わらせるつもりだったんだけど、結構やるね!」
ジョーカーは戦慄した。フレイとは、ここまでか!? 辛うじて居合いは避けられたが、入る予備動作がまったく判らなかった。いつ抜いた? という以前に、いつ握った? だが、ここで距離を取れたのは幸いだ。
!?
突如、フレイの顔面に刃が飛ぶ。上体を反らして躱すも、2撃目、3撃目が飛んで来る。3撃目は刀身で受けた。重い感触は、鈍器を思わせる。だが、奇妙だ。刃の届く距離ではなく、投擲のモーションもない。……私は今、何をされた?
異能、『幻影の暗殺者』。ジョーカーの殺気は、相手の脳内で現実の刃と化す。脳は映像、音、感触すら作り出し、斬られた箇所は痛みと共に機能を失う。脳が「この肉体は死んだ」と判定すれば、現実にも死にかねない。
4撃目が、右腕をかすめた。熱い! 思考加速が、状況を解析する。……不意に火を模したものに触れ、一瞬だけ本当に熱さを感じた体験。及び、感覚まで再現した現実味の強い夢と、類似性あり。かなりの高確率で、脳への干渉と推察。
フレイはこの結論を得て、うえ、何て悪趣味な……と思った。同時に思考加速は、極めて単純な対処法を導きだす。脳が区別をつけられないなら、すべて避けて捌いて実体を斬る!
刃をかいくぐり、フレイは前進した。見えなくても、正体が殺気である以上は察知できる。剣での戦いである以上は、まだフレイの土俵だ。
! あと二足ほどに迫った時、ジョーカーが一気に跳び込んで来た。虚を突いた右袈裟を受け……ようとした寸前、背中に殺気が襲う! 思考加速は、同時に受けるのも躱すのも不可能と判定、前進に活路を見出す。右足で全力で床を蹴り、左膝をジョーカーの顔面へ合わせる。右袈裟とは、相討ちを覚悟!
しかしジョーカーは、回避を選んだ。重心を右にズラし、そのまま転倒する形で被弾を避ける。
フレイは宙で反転、ジョーカーに向く形で着地。……だが、その視線の先に敵はいなかった。階段の下から、駆ける音。
「もう、逃げられた―!!」
事態を察したフレイが、子供のように地団駄を踏む。護衛任務である以上、フレイはジョーカーを追う訳にはいかない。
予告:第13話 トールの初陣
一瞬、スペードは考えた。このまま逃げても良いが、間近で背格好を見られているというのは、やや具合が悪い。とりあえず、殺しておいた方が無難だろう。しかし、まだ少年じゃないか。……これから希望に溢れる未来が待ち受けているというのに、運が悪い。
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