第12話 - 4 ウィンザー邸、襲撃事件 ~狂騒と絶望と
「き、貴様……」
衛兵が手に持つ槍を構えるより早く、スペードの短刀は喉を切り裂いた。倒れ込む衛兵をクラブが支え、そっと床に横たわらせる。・・・と、そこでクラブが気付く。
「ん、こっちは陽動だから、気付かれても良いのか?」
「折角だから、ウィンザーは始末しておこう。後々の査定に響くかもしれんしな……」
「だな。派手に騒いでもらうのは、その時ということで」
要所に配置される衛兵たちに、強い警戒心はなかった。ただ立っているだけで給金が発生する、楽な仕事だとでも思っているのだろう。夜盗の類は、警備があるという時点で標的から外す。またウィンザー自身は、取り立てて殺す価値のある人物でもない。緊張感を保つには、あまりに安穏な日々が続いてしまった。
4人ほど始末して寝室前の廊下に着き、潜んで様子を伺う。衛兵が二人、扉の前に立つ部屋がある。標的が眠るのは、そこだろう。
「こんなボンクラどもを相手に、陽動など要らんよな」
「作戦通りにやるだけさ……」
スペードとクラブは、ゆるりと姿を現した。スペードの左手には、さっき仕入れた生首が、ランプを持つかのようにぶら下げられている。狂騒を誘う、ちょっとした小道具だ。ボタボタと、滴り落ちる血液。廊下を照らすランタンの炎が、その姿を揺らす。
衛兵から見れば、悪夢そのものの光景であっただろう。
「誰だ!?」
遠くから槍を向けてくる二人にクラブは吹き出し、スペードは呆れ果てた。スペードは如何にも面倒くさそうに、
「ったく、どこからどう見ても凶悪な敵だろうがよ。俺たちに名乗らせて、何か意味でもあんのか?」
!?
敵襲! と叫ぶのに合わせて、もう一人がホイッスルを吹く。これで、陽動の役割は果たせたであろう。後はウィンザーの命でも土産に貰って、退散することにしよう。
無造作に、スペードは生首を衛兵に向かって放り投げた。それは血を撒き散らしながら、ゆったりと逆回転する。その軌道を、衛兵たちは目で追ってしまった。
スペードが、一気に距離を詰める。慌てて応射した衛兵二人の穂先は、虚しく空を突いた。足元! と気付いた時点で、スペードは既に二人の間を通り抜ける。
……首の後ろから短剣を生やした二人が、膝を突き、ゆっくり前に倒れ込んだ。
「今のは美しい! なかなかの芸術性!」
パンパンと、手を叩いてクラブが称賛を送る。「では、ウィンザーは自分が……」と、扉に手をかけた。ん……鍵がかかっている。クラブは針金状のものを取り出すと、片膝をついて鍵穴に差し込んだ。ガチャガチャとポイントを探し、数秒でカチャ!という正解の音が響く。
……ウィンザー夫妻は、絶望の扉が開かれていくのを、ただ呆然と眺めるしかなかった。
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