第12話 - 1 ウィンザー邸、襲撃事件 ~ジャミルの敏腕
ウィンザー邸では、ウィンザー伯子女の生誕宴が執り行われる。グルモア連合王国、ケルシー産業相も私的交友から招かれ、ジャミル経済相との会合の機会が設けられた。主に関税、各種経済協力の調整が話し合われる。
特にグルモアに輸出される綿花の税率は、ここ数年の懸念事項である。綿花の栽培では、気象条件でオーシアに分がある。品質と価格の差は明らかであるが、グルモアは高い関税率によって自国産業を保護している。
自国利益は前提であるが、ジャミルは国際的分業によって、産業を効率化すべきという立場にある。産業の全てを自国で完結させるのではなく、得意分野に注力し苦手分野は他国に任せる。その上で補い合った方が、結果として複数の国が同時に豊かになれる。
しかしグルモアの綿花産業は、有力貴族の既得権益下にあった。商業権を独占し、高かろうと悪かろうと、国民はそれを消費するしかない。ただグルモア国側も、本音ではその状況を快く思っていない。ジャミルは今日の会合で、状況を打開させたかった。
生誕宴は、日が沈み宵に入った辺りで終了した。ジャミル経済相とケルシー産業相との会合は、この後、奥の応接間で行われる。グルモアは遠方である為、ケルシーは宿泊となる。会合の終了時刻に拠っては、ジャミルも同様に宿泊の流れとなる。その場合、王立騎士団は夜営での護衛任務に移行する。
――両相の会合は、双方が想定していた通り、深夜にまで及んだ。懸念事項である綿花の関税率は、ある条件をもって解決の目途が立った。ジャミルが、商業権を持つ貴族の不正と、その証拠を提供したのである。罰則として商業権を王国に没収する形であれば、行為に正当性が担保される。
また綿花産業に携わる者の失業問題に対しては、より気候に適した作物への切り替えを提案した。その技術とノウハウ、栽培にかかる全てをオーシアが後押しする。日持ちしない、足の早い作物に限定すれば、元より交易される商品ではなく、オーシア側に損はない。
グルモア、オーシア、双方に利益のある提案である為、大枠でケルシーに反対する理由はない。しかし、こうも全てのお膳立てを整えられて、あとは承知して国に持ち帰るだけという状況を作られては、面白くはない。産業相として、自分は何もまともな仕事を果たしていない。
「いやはやジャミル殿、卿の慧眼には怖れ入った。この後の時間は宜しいか? 今宵は、大いに語らいましょうぞ!」
ただケルシーは、自尊心は高くても、それを受け止める度量を持ち合わせていた。その後、ジャミルはケルシーから質問攻めを受け、会合はジャミルの政治経済講座に変わった。……こうしてまた一人、ジャミル案の熱烈な信奉者が生まれた。
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