第10話 - 4 騎士団、護衛任務への招聘 ~騎士っていう生き物は……
「だから俺としては、お前さんの実力の程を知っておきたいのよ。仕事を教えようにも、それからだな」
トールと対峙したヘラグは、やや小柄だ。顔も幼く、年下に見える。まるで、生意気な中学生に絡まれているようだ。
「ちょっと、ヘラグ! 貴方、ただ戦ってみたいだけでしょ!?」
見かねて、さすがにフレイが口を挟む。他の騎士たちは、ただ呆れ顔だ。
「高等部の学生、しかも1年坊主がベスト4だぜ? 興味がねー訳ねーだろ。まあ俺の言い分だって、間違っちゃないと思うぜ」
うーん、とフレイは考え込んでしまう。
「それも、そうね。じゃあ、少しだけにしなさいよ?」
「ああ、解ってるよ!」
え、僕の意思は? と、トールは思った。だが、トールの意思は確認するまでもない。騎士との手合わせなど、望むところだ。
ヘラグが、壁にかけてあった剣を投げて渡す。
「刃は落としてあるが、当たれば無事では済まない。任務に付いて来れるくらいには手加減してやるから、安心しろ」
ヘラグは、元よりトールを戦力として期待していない。護衛任務は、試合のように行儀良くはない。刺客はいつ、どのような手段で襲って来るか判らない。ただ剣の腕が立つだけの学生風情など、真っ先に殺されて終わりだ。一人、護衛対象が増えたようなものである。要は、お荷物だ。
ケヴィンに勝ったのも、獅子王杯の4強入りも、評価としては半信半疑だ。元々、ケヴィンが買い被られているだけで大した事はなく、他の対戦も運よく相手に恵まれただけではないか?
何れにしても、剣で語ってみなければ何も判るまいよ。
「ホラ、打ってこい!」
構えたトールに、ヘラグが手の平を上にして手招きをした。トールは、思わずケヴィン戦を思い出す。騎士という生き物は、何でこう、上から目線で挑発的なんだろう。
トールが、上段に構えた。その所作に、ヘラグが感心する。美しく無駄のない動き。……こいつは、やる! ヘラグはここで、一切の慢心を解いた。
「トール、それは!」
トール・ハンマーを止めようとする、フレイの声が耳に入った。しかし打ち下ろされたのは、普通の上段斬り。続く二太刀、三太刀も、ヘラグに難なく受けられる。
だが、これはトールとて本気の打ち込みではない。軽い挨拶を兼ねて、実力を測ったまでだ。どれ位、打って良いのかの打診である。
「生意気なヤツめ! 本気で来い!」
その意図が、ヘラグに伝わった。トールは応じて、打ち込みの強度を上げる。その反応速度、合理性から、ケヴィンに同格と判断する。いや、身体能力では、ケヴィンをやや上回るか?
トールは、想定をケヴィンのやや上に設定する。現在のトールであれば、普通に十分に張り合える。
栄誉の間に、二人の息遣いと、剣と剣をぶつけ合う激しい金属音が響く。双方とも、本気ではない。いや本気と言えば本気なのだが、相手を打ち負かす意図はない。互いの技量を信頼し合った上での、力比べのようなものだ。
ハハッ! と、トールは戦いながら笑った。決める、決められるではなく、こうして対等に打ち合っているのが楽しかった。
最後に袈裟と袈裟とが打ち合わさり、互いに一歩、後退して戦いは終わった。もう十分、ここで終わりと、話し合うわけでも合図を送るでもなく、意識が一致した。
「トール、お前は大したもんだ。十二分に、王立騎士団に名を連ねる実力がある」
あれだけの激しい戦いの直後で、ヘラグは息一つ切らさない。
「……はい! ありがとうございます!」
一方、トールはやや息を乱す。対等に見えた二人であるが、やはり差はある。あのまま続けていたなら、体力差で均衡は崩れていただろう。
「よし、当日の護衛任務について、徹底的に叩き込んでやる。俺が教えるからには、きっちりと戦力になってもらうからな!」
「はい! よろしくお願いします!」
トールは、自らの力で居場所を獲得した。
「とりあえず、配置決めやるよー!」
トールがちゃんと認められて、ニコニコとフレイは上機嫌だった。
予告: 第11話 ジャミル=ミューゼル侯爵との対話
「私はね、戦争そのものは否定しない。戦争はあくまでも手段であって、目的ではないからね。場合によっては、戦争という手段が、もっとも正しい時だってある」
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