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第9話 - 2 獅子王杯、準決勝 フレイ VS トール ~決戦

 トールが、一気に間合いを詰めた。右腰下に引く、下段の構え。剣先を地面に滑らせ、一気に抵抗を解き放っての逆袈裟!


 朧月おぼろづき


 速い! 受け止めず、フレイは朧月おぼろづきを弾き返す。


 この技で奇襲とは、やるもんだねぇ! フレイは歓喜した。私の為に、どれ程の思考と鍛錬を積み重ねて来たのだろうか? それは既に、フレイにとって恋文にも等しかった。


 弾かれた勢いを利用して、トールは逆に回る。足元をぐ一閃は、バックステップでかわされた。


 トールは自覚していた。今の自分は、ショーン戦で入った最高の状態に近い。ここに入るために、フレイを恐怖の対象に濃縮していった。心が崩壊しかねない死の恐怖は、ギリギリのところで攻撃性に転嫁できた。


 フレイに反撃の様子は……ない。クソ、防戦一方ではなく、お手並み拝見と来てやがる。この状態にあって、まだそこまで格上というのか?


 トールもまた、フレイとは異なる次元で歓喜の中にあった。トールの今、ゾーンは多幸感を伴う。脳内で分泌される興奮物質が、リミッターを外す。全ての感覚が鋭敏となり、考えるよりも早く、肉体が最適解を選ぶ。ゆったりとした時間は、まるで永遠のようだ。


 受けてくれるのであれば、その間は攻めれば良い。だが追撃するも、受けに徹したフレイは固い。全ての攻撃が、まるで予知されていたかのようにさばかれる。到底、人間に可能な反応速度とは思えない。


 ……フレイは、驚嘆していた。あの高速剣を抜きにしても、ある程度はやるだろうとは見込んでいた。しかしまさか、ここまでの質を持ち合わせているとは! 初撃への反応の遅れを取り戻すために、異能に入らざるを得なかった程だ。


 異能、『思考加速』。一瞬の時間に思考を凝縮させ、結論を導く。全知識から検索をかけて、関連する情報を抽出。各情報を関連付けて論理性を持って整理し、得られた結論への評価まで行われる。評価とは、可能性の度合いを意味する。100%の断定から、無視して構わない程度の低い確率までを判定。潜在意識とも深く繋がるため、直感までも強化される。


 おそらくトールは、何らかの方法で絶頂に自分を持って来ている。だとすれば、これ以上の姿はない。


 トールの連撃が止み、一息つくタイミングでフレイが初めて仕掛けた。


 さすが! ちゃんと付いて来る。基本に忠実な、良い受け方だ。


 なら……と、フレイが強度を上げる。一回、受けの剣が流されて修正。トールは、パワーで押される分、勢いをいなす受け方で適応して見せた。


 すごい! すごい! ますます、フレイは歓喜した。獅子王杯で、ここまでの戦いが出来るとは思っていなかった。


 フレイは鍔迫つばぜり合いのような形から、剣を強引に押し込んだ。姿勢が崩れるのを拒否し、トールは大きく後方に跳ぶ。……これで、話ができる。


「凄いじゃないか! 初手からゾーンとは、器用なものだね」


 ……。トールは、答えない。普通に会話をする方を選べば、ゾーンは解ける。一度解けたゾーンを入り直すのは、極めて難しい。その辺りは、フレイも重々、承知だ。


「私も今から本気を出すけど、出来ればあの高速剣、どこかで見せてね!」


 フレイに、殺気が宿った。トールに込み上げる恐怖心は、強引に攻撃性に転嫁される。ゾーンにあって尚、屈服させられかねない。並の剣士であれば、実際に剣を振るわずとも、この殺気だけで片が付いてしまうだろう。


 絶対に、先手を取らせてはいけない! トールは、フレイが攻撃の機に入る直前、自分から打って出た。勝つためというよりも、それは負けないため。負けるのを引き延ばすための戦いだった。トールが導き出した最適解とそれに近い幾つかの可能性に、自分が勝利を収める姿はなかった。


 しかし、だからと言って、諦めるという選択はない。可能性がないなら、少しでも動いて、状況を変えるまでだ。可能性をこじ開けるまで、抗い続ける!


 フレイは、トールの剣撃に打ち合わせた。力負けした分、トールの次の始動が少しずつ遅れる。3撃目の打ち合わせで、攻防は逆転した。そして、フレイの左からの逆袈裟で、受けたトールの剣が上方に流される。


 フレイの脳裏に、ショーン戦の最後の攻防が浮かんだ。だがトールの上半身はねじれ、背中を見せるほどに体勢を崩している。状況は違う。――刹那せつな、右手の動きは、その体勢から攻撃に移る意思を見せた。苦し紛れの抵抗であり、脅威度は0に等しい。フレイは、返しの右袈裟を選択する。


 ――トール・ハンマーは、筋力の所作にあらず。トールはその時、根本的な誤解を悟った。感覚の違いを自覚しておきながら、トール・ハンマーを通常の剣の延長線上に捉えていた。トール・ハンマーは、筋力で振り下ろす技ではない。


 トールはフレイの頭頂を標的に、空間を圧縮し、時間を創造した。トール・ハンマーが発動する。


 !? フレイの直感は、脅威度判定にキャンセルを入れた。咄嗟に、回避に切り替える。凄まじいものが、左腕を僅かにかすめて通った。え、思考加速で事後報告!? 爆発音と共に、地面が大きく陥没した。


 ……トール・ハンマーの代償は、大きかった。あのような角度で、人間の腕は動くようには出来ていない。構造上で無理な方向に巨大な力が加わり、トールの右腕は粉砕された。関節は壊れ、筋肉は断裂した。


「……参りました」


 トールが、敗北を宣言する。ここで、フレイの勝利が確定した。


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