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第8話 - 3 狂戦士、メアリー ~フレイに対抗し得るもの

 その夕刻、トールはエレナ=クラーゼンを訪ねた。夕日が差し込む学院長室では、テーブルや椅子、過去の栄光を刻むトロフィーなどが、長く影を引いている。外からは、喉を潰したような鳥の鳴く声。


「フレイに勝つアドバイスなんか、あるはずなかろう?」


 エレナは心底、呆れて見せた。


「いえ、勝てると思っている訳ではありませんが、自分では戦い方すらイメージできません。イメージ上の模擬戦で検証してみても、本気で来られたら、一瞬にして終わってしまいます。……ですから、何か少しでも糸口を掴めればと思いまして」


 ふむ……と、エレナは考え込む。ケヴィン戦、ショーン戦で、トールの現時点はおおよそ把握できた。短期間で驚愕すべき進化であるが、ただ相手がフレイとなると、話はまったく別だ。極端な話、その進化すら意味がない。ウサギがウサギとして、どれ程に強くなろうとも、虎の前では無意味なのと同じだ。今すぐではなく、将来的にと言うのであれば、できる助言もあろうが……。


「そうだな、強いて言うなら……で良ければ、なくはない」


「はい! よろしくお願いします!」


 トールの顔が、パッと華やぐ。


「まず考え方として、だ。この数日でフレイのレベルには、到達できない。経験や技術はもちろん、身体能力からして、全てが圧倒的に格上だ」


「はい」


 神妙に、トールは頷いた。


「あるいはメアリーのように、強引に身体能力を上げて挑む手もあるのかもしれない。まあ、あんなもの、フレイが講釈するまでもなく、格上に通じる代物ではないがな」


 メアリーは、たまたま試合中に狂戦士バーサク化しただけで、シンシアへの嫉妬が原因であるのだが、その事情は知れない。トールは、試合開始直前に自身を凝視する姿を見て、自分と再戦する決意であると受け取っていた。


「だがトールよ、もし一瞬でもフレイを上回れる可能性があるとしたら、何だと思う?」


 エレナは、トールの顔を覗き込んだ。


 トールは、自身の経験に回答を求めた。エレナの問いかけ方に、「これくらいは、普通に考えれば解るだろ?」というニュアンスを感じ取ったからだ。絶対的な強さは一定でも、相対的な強さは変動する。


 不確定要素の強すぎる運頼みのものを除外すれば、有り得る原因は慢心か油断、肉体の温まり具合あたりだろうか。


「フレイから見れば、僕は明らかに格下です。序盤で想定を超えられれば、その一瞬だけは上回れるかもしれません」


「ああ、その通りだ。試合前のウォーミングアップでトップコンディションまで持って行き、序盤で力を爆発させて一気に決める。稀に、格下が格上を喰うパターンではある。しかし……」


「ええ、それでどうにかなる相手とも思えません」


「だが、ショーン戦での最後のお前ならどうだ?」


 トールは客観的に、朧月おぼろづきに居合いで対応し、トール・ハンマーを繰り出した流れを想起した。確かにあの瞬間だけであれば、フレイとも渡り合えるかもしれない。もっともそれは、あくまでも本気ではないフレイであって、完全に差が埋まる訳でもないが。


「はい、あの瞬間だけであれば。ただあれは……」


「解っている。あれは、狙って入れるものじゃない。しかしトール、紛れもなく、あれはお前の姿で、お前が発揮できる力だ。今のお前にとっての最高が解っているなら、それを何とかして、フレイにぶつけるしかないだろう?」


「……はい」


「加えてだ、お前には騎士をも打ち破った高速剣……トール・ハンマーと言ったか?」クスッ……、トール・ハンマーでツボに入り、笑いが漏れる。「いや、悪い。素晴らしい名称だ」


「学院長!」


 本当に、そこには触れないで欲しい。トールは、ショーンを恨んだ。


「ハハハ、悪い悪い。別に気にすることはない。私も中等部の頃には、変わった技を編み出しては気取った名前を付けたものさ。トール・ハンマーと違って、無駄が多くて使い物にならなかったがな」


 一つ、エレナは咳払いをして切り替える。


「トール・ハンマーだけは、十分にフレイに対抗できる。私が避けられたのは、あのタイミングで来ると解っていたからだ。戦いの中で出されたら、タイミングによっては喰らっていたかもしれない」


 トールの顔が、引き締まった。


「対抗できそうなものを、こうして繋ぎ合わせたなら、勝てる可能性は0ではない! くらいには、持って行けたんじゃないか? だから強いて言えば……なんだが、不服か?」


「いえ、十分です! 0ではないなら、望みに向かって探求するのみです!」


 トールは、深々と頭を下げた。その長い影が、本棚に映し出されていた。


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