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第8話 - 2 狂戦士、メアリー ~狂ったように剣で噛みつく姿

 大会三日目、獅子王杯、二回戦。王立騎士団:フレイ VS シュヴァルツ高等学校:メアリー。


 観客の関心は勝敗ではなく、フレイがどう勝つのか? メアリーがどこまで頑張れるのか? に注がれている。例によって、オッズも付かない。


 ?


 対戦相手の様子のおかしさに、フレイが気付いた。目は虚ろで焦点も定まらず、ぶつくさと何か声を発しているが、内容までは聞き取れない。ただ鬼気迫る尋常ならざる精神状態であることは、容易に感じ取れた。


「お嬢さん? ……大丈夫かい?」


 !?


 突然、メアリーはカッと目を見開き、周囲を見渡し始めた。何かを見つけたらしく、ある一点に留まると、瞬きもせず動かない。


 フレイが、視線の先を追った。話題のトールと、横にいる小柄な女性は……彼女さんかな?


「始め!」


 開始の号令と、重厚な銅鑼どらの音が鳴り響く。


 トールを凝視して微動だにしないメアリーに、フレイは躊躇ちゅうちょした。この子、本当に大丈夫? チラっと、審判に目をやる。試合中止という感じでも、なさそうだ。


 それとも、何かの作戦かな? だったら、面白いんだけど……。


 その時、ゆっくりと、メアリーの口角が上がって行った。笑顔が完成すると同時に、禍々(まがまが)しい気配を帯びる。


「くっ……」


 瘴気しょうきに当てられ、フレイの表情が曇る。


 キャハハハハ! カン高い笑い声と共に、メアリーが跳びかかった。頭部を狙った横薙よこなぎの剣を、バックステップとスウェーでかわす。


 キャハハハ! キャハハ!


 狂ったように振り回す、メアリーの連撃。技術も何も、あったものではない。ただ闇雲に、力任せに剣で噛みついているようなものだ。


 だが、フレイには当たらない。まるで予知でもしていたかのように、最小限の動きでかわし続ける。


 足元への横薙よこなぎを軽く跳んで躱し、フレイは上段を打った。メアリーの受け、木剣を両手で持ち上げると同時に頭をその下に潜り込ませる動きが、ギリギリで間に合う。追撃の前蹴りも、後ろに跳ばれて当たりが軽い。その身体能力と勘の良さに、フレイは舌を巻いた。


 ザワザワと、場内がどよめく。


狂戦士バーサク化か! 見るのは、久しぶりだよ!」


 ――狂戦士バーサク化。知性や理性と引き換えに、身体能力を極限まで引き上げる能力。異能として扱われることも多いが、難しくはあっても後天的に身に付けられるものでもあり、その意味では技とも位置付けられる。


 グアアアア!


 遠目から、メアリーが突っかける。セオリー、型をまったく無視した乱打を振るうも、変わらず、フレイの体捌からださばきが勝る。メアリーの攻めを、華麗なステップで流麗にいなし続けながら、


「折角だから、カワイイ後輩に教えてあげるよ!」


 キャーハハハ!


「……狂戦士バーサク化は、結論から言えば、決してお勧めできません」


 グアア!


「一見、もの凄く強くなったように見えるんだけど……よっと、危ない! 結局は、自分以上の何者かには、なれっこないんだよ」


 アーハハハ! グゥゥ!


「要するにね、肉体と心技を極めた自分自身には敵わないのさ」


 ガァーーー!!


「っていう事はつまり……」


 ……フレイの声が沈み、殺気がメアリーを刺した。グゥ……と、表情に脅えが走る。苦し紛れに放つ刺突が、当たるはずもない。


 次の瞬間、メアリーからは、フレイの身体が歪んだように見えた。鋭い踏み込みから、胴をぎ払う。技としては、何ということはない。ただ踏み込んで、胴を打っただけだ。


「私のような格上に、通じるはずはないんだよ?」


 メアリーはうずくまり、あまりの激痛に意識を失った。


「聞こえて理解していたらだけど、覚えておいて。狂戦士バーサク化は、戦士の頂ではありません! 楽に強くなろうとせず、ちゃんと精進なさい! 以上です」


 静まり返った場内に、フレイのりんとした声が響いた。……遅れて、大歓声に包まれる。


 メアリーの代わりに、腕を組んだマグドネルが、一つ深く頷く。どこで狂戦士バーサク化なんて覚えたのかは知らないが、目が覚めたら話し合いだ。


 トールは、唖然とした。メアリー戦でのフレイは、ダングリオン戦から想定した姿を、更に大幅に超えていた。


 ……これは、強さの底が知れない。


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