第7話 - 3 トール VS ショーン ~その名前、とってもクールですよ!
勝者宣言を受けたトールが、ショーンに手を差し出した。笑顔で、素直に応じて立ち上がるショーン。たが、さすがに苦悶を隠し切れない。
「この、ペテン師め!」
発したトールにとって、これは誉め言葉である。逆袈裟から袈裟の撒き餌で、まんまと罠にかかった自身への戒めでもあった。試合前に剣先で地面を削った動きは、今にしてみれば抵抗を測ったのだと知れる。もう少し熟考したなら、あの技を想定できたかもしれない。
「……けれど、まさか初見で朧月が破られるとはね。恐れ入ったよ」
あの技は、朧月と言うのか……。名前の由来はよく解らないが、渋くてカッコイイな。
「紙一重、偶然です」
実際、これはトールの謙遜ではない。朧月に反応して居合いで受ける、飛ばされた先で上段の構えを完成させる、二分の一のギャンブルで、連続で当たりを引いたような感覚だ。
「聞いてはいたけど、あの高速剣、まったく見えないですね。いや、凄かった! 対戦できて良かったです。ありがとう!」
「僕も、勉強になりました。こちらこそ、ありがとうございます!」
笑顔で握手を交わす二人に、場内に拍手と歓声が響く。
「ところで、あの高速剣に技の名前はあるんですか?」
「え、あ、名前?」
トールは、動揺した。トール・ハンマーは、やはり自分の胸に留めておきたい。
「ないようなら……。そうですねえ~、流星斬なんてどうでしょう? 宇宙から流星が降るが如くの斬撃! ピッタリだと……」
「……トールハンマァ」
ショーンが言い切るより早く、トールが呟くように被せた。
「はい? トールハン……なんですか?」
「もう名前はあって、トール・ハンマーと言います!」
? 何だかよく解らないテンションに、ショーンは鼻白んだ。すぐに気を取り直し、
「トール・ハンマーですか! 自分の名を冠する技名なんて、クールですよ!」
「ちょ……声が大きい」
すっかり、トールは小さくなってしまった。傍から見ると、どちらが勝者か判らない。
「あれは確かに、他人には真似できないだろうからね。自分にしか出来ない技だぞ! という自信が漲っていて、とっても良いと思うよ!」
トールのHPは、もうゼロだ。ただ「ありがとう」「ありがとう」を連発して、とにかくこの話題から離れたかった。
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