第7話 - 2 トール VS ショーン ~秘剣、朧月!
大会3日目、獅子王杯、二回戦。アラド=クラーゼン学院:トール VS ブラドストーン高等学校:ショーン。
小雨の降る曇天を背景に、二人は対峙する。
「トール、昨夜はよく眠れましたか?」
「まあね、そちらの調子は?」
「いつになく、絶好調ですよ! 開始が待ちきれません!」
トールは地面に目をやり、軽くステップを踏んで足場を確かめた。極端にぬかるんだ箇所がないか、周囲を見渡す。やや粘り気はあるが、滑るという程ではなさそうだ。あとは、やりながら適応すれば良い。
ショーンも、同じようにステップを踏んで確かめた。木剣の切っ先を突き立ててズラし、できた溝を踏んで消す。トールはその動作を不思議に感じたが、きっとそれで何か解る情報でもあるのだろうと納得した。もしかしたら、ゲン担ぎ的なルーティーンかもしれない。
審判に誘われ、開始線に静止する。トールは中段に、ショーンは下段に構える。数秒の間――。
「始め!」
開始ざま、ショーンが右下段から対角線に振り上げる。逆袈裟切り。後方に跳んだトールを追いかけ、返しの左袈裟! トールはこれを下から跳ね上げ、上段に振り上げる。咄嗟にショーンは後方に転げ回り、距離を取って立つ。
遠間から、トール上段、ショーン下段で睨み合う二人。場内は、この攻防に湧いた。
トールは、内心でヒヤッとした。想定したより、足場を取られている。迎撃を視野に浅く躱そうとしたなら、今ので決められていたかもしれない。
ショーンは、遠間から動かない。トールが距離を詰めようとすれば、下がって回り込み距離を保つ。
「逃げるな!」
「追いかけっこを見に来たんじゃねーぞ!」
と、ショーンに野次が飛ぶ。
トールは上段を下ろし、中段に構えを変えた。じり足で、ショーンが間合いを詰めてくる。トールが上段に戻した。その仕草が見えるや否や、跳び退いて距離を空ける。
……やはりだ。ショーンはあからさまに、トール・ハンマー対策を敷いてきた。上段に振り上げたら、なりふり構わず射程圏から離脱する。単純な発想だが、極めて効果的だ。まるでコントのようでもあるが、笑われたところで負ける訳ではない。
何度か繰り返して、トールは諦めた。このままでは試合が成立しない。
「解った! 最初から上段には構えません。それで良いですか?」
「はい、お心遣い、痛み入ります!」
二人の間に、試合とは別のルールが設定されてしまった。暗黙の了解であるとか、そういう私的ルールが加わるケースは、ままある。
トールが中段、ショーンが下段の形で試合は再開した。下段は、基本的には応手の構えとなる。敵の攻撃を見切り、下方から振り上げる太刀筋で迎撃する。開始直後の逆袈裟から袈裟の返しの鋭さを見るに、練られた型だと察せられる。
ショーンは何度か先手を取り、逆袈裟から袈裟の二連技、そこから横薙ぎの三連技を見せる。トールからすると、どうにも呼吸が合わない。自分が攻める機が来る前に、ショーンに先手を取られる。これが、ショーンの持つ「相手に機を取らせない」技術なのであろう。
しかし何度も同じ技を仕掛けて来られたなら、さすがに機とリズムは覚える。逆袈裟を躱して、次の袈裟の間を仕留めるイメージが明確になった。
互いにじり足で、ゆっくりと間合いを取り合う。先ほどから、何度も繰り返された展開だ。……トールの左足が指の半分、ショーンの射程内に入る。と同時に、ショーンが逆袈裟のモーションに入った!
トールは後方に跳び射程外に逃れながら、半身を捻って剣を左腰に収める。眼前を逆袈裟が流れるのを待ち、居合を放つ!
……が、逆袈裟が来ない。
!?
トールは地面にめり込む、ショーンの切っ先を見た。刹那、地面の抵抗から解放され、格段に速度を増した逆袈裟が襲う!
秘剣、朧月!
完全に、機をずらされた。トールは重さを犠牲に、最速の居合いを逆袈裟に合わせる。受けた剣が上方に飛ばされ……ながら、手首を返して軌道を調整。行く先が誘導され、片手上段の構えが完成した。……事態を察したショーンに、冷たい戦慄が走った。
トール・ハンマー!
咄嗟の躱しは、辛うじて頭部を逃がすに留まった。ショーンは左鎖骨と第二肋骨までを折られた。勝負はあった。
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