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第7話 - 1 トール VS ショーン ~前夜の会合

 獅子王杯、2日目の夜。寮に近い公園広場で一人、トールはフレイを思っていた。正拳突きの馬鹿げた威力はともかく、あのダングリオン戦で見せた打ち込みは、まるでレベルが違う。何度イメージのフレイと模擬戦を繰り返しても、1分と持たずに敗退してしまう。防御に徹したとして、5分を超える試合にはならなかった。


 トール・ハンマーなら、どうか? 情報がなければ、ケヴィン戦と同じ結末も有り得る。しかしフレイ程の剣客に警戒されて、その再現は期待できない。トール・ハンマーは強力な武器ではあるが、だからと言って無敵ではない。現に、学院長には通用しなかった。来ると解っていれば、対応は可能という証明である。つまり、要は使い所だ。


 これまでエミリーとケヴィンに通じたのは、初見殺しだったからに過ぎない。むしろ自分の真価は、トール・ハンマーが知れ渡った後に測られる。トール・ハンマーだけが脅威であるなら、それを避ければ済む。現状では、ケヴィンとの再戦であっても勝ち目は薄い。


 深夜に差し掛かった頃、フレイに119回目の敗戦を喫した時、一人の少年が歩み寄って来るのが見えた。姿に、見覚えがある。


「こんばんは。ここに居ると、他の人に聞いて来たんだ」


「明日、僕と対戦する……ショーンさんですよね?」


「知ってもらえたなら、話は早くて良いね」


 ショーンの物腰のやわらかさは、とても戦いを控えた相手とは思えなかった。女性的な顔立ちで、闘技をする者としては線も細い。


「ショーンさん、今日は何故ここに?」


「深い意味はないんだ。ただ同じ学生で戦う相手に興味があってさ、少しだけ話をしたいと思っただけで。……迷惑だったら、帰るけど」


「いえ、迷惑だなんて、とんでもありません! そう思ってもらえたなら光栄ですし、獅子王杯に出場するほどの他校の生徒なら、こちらも勉強になります」


「ハハ、そう言ってもらえると嬉しいよ。少し、座ろうか?」


 トールとショーンは、剣術談義に花を咲かせた。やはり学校や流儀が異なれば、考え方や哲学も違う。その違いの意味に気付く日が来れば、剣士としての土壌はより強固なものになる。言わばこの時間は、芽吹く保証のない種まきのようなものだ。


 話の中でトールは、ショーンの思惑を察する。当然トール・ハンマーは、対戦相手としては聞きたいよな。


「……別に、構わないよ。僕たちはまだ未熟で、秘密なんか持つもんじゃない。明かして破られるような技なら、所詮はそれまでの事。……何だったら、早くバレて早く対策されて、その分、早く先に進んだ方が得だよね!」


 トールのあまりの潔さに、ショーンは目を丸くした。ショーンはここまで成長に貪欲な剣士を、他に知らない。トールにとって目先の勝利や栄光は、成長に比べれば無価値に等しいのだろう。


 実際、トールの言葉に嘘は無かった。トール・ハンマーが上段斬り限定であると、現段階での肝を伝える。これで対戦相手は、あの高速剣については、上段以外を警戒する必要がなくなった。無論、トール・ハンマーの名前は伏せる。自分が気に入っているのと他人に明かすのとでは、話が別だ。


 元より、そのような謎は長続きしない。早々に明るみに出て、優位さを失うのは避けられない。であれば一早く、対策した相手との実戦をしたかった。将来、戦場に立った時に、自分がどの段階にあるのか? 目先の勝ち負けに、さほど意味はない。実はこの件に関しては、トールとショーンの利害は完全に一致していたのである。


 話はやがて、ショーンの身の上になった。貧しい家に育ち、末っ子の自分は兄が働いたお金で学院に通わせてもらっている。だから自分は剣の道で出世して、家族を助けたい。3年生で初出場した獅子王杯で活躍すれば、その大きな足掛かりになる。


「まあ、石を投げれば当たる、よく聞くありふれた苦労話だよ」


 と、ショーンは笑った。


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