第36話 - 1 終戦 ~脱出計画
オーシア王城の戦い十日目。既にオーシア軍は約半数の兵を失い、その中には学生兵も含まれていた。王城の防衛が難しいと判断したオーシア中枢部は、王城と首都の放棄を決断。外に出て潜伏した兵と合流し、北に向かう。既に逃げ落ちたドゥリン=オーシアの元、改めて決戦の機を窺う。
しかしそれには、混成軍の包囲網を突破しなければならない。王族らの脱出を最優先とし、出来るだけ多くの兵を逃がす。ただその成功には、明らかに疑問符が付いた。あまり現実的とは言えない計画に、降伏を訴える声も上がった。しかし混成軍が行ってきた虐殺と略奪の事実を前に、それは泡のように消え去る。
王立騎士団も犠牲者は出しているが、主要メンバーは生存。アイゼキューター、フレイ、ヘラグ、シンシアも健在であった。またアラド=クラーゼン学院、現筆頭:ルイーゼは何故か王立騎士団に混ざって参戦。実力を認められ、立派なメンバーの一員のような顔をしている。
「……次こそ、さすがに死ぬかもな」
今回の戦いで初めて、ヘラグが弱音を吐いた。あまり深く考えた発言ではなかったが、そこには生き残ろうとするより、死を覚悟した方が生存確率が上がるという感覚があった。
「死ぬには良い日だって、何かでなかったっけ?」
フレイは飄々として、何も変わらない。もし何も知らずにこの表情と声だけで判断したら、カフェでの世間話あたりに思うだろう。
「初めて聞いたが、カッコイイな! それ!」
ヘラグは目を閉じ顔を決め、両手を組んだ。
「ふっ、死ぬには良い日だ……」
パンッ! 後頭部をシンシアにはたかれる。
「痛ッ! 何しやがる!!」
「あんたが死んだら、皆んなが困るんだから! 勝手に覚悟を決めないで!」
?
「……そうだな。シンシアが正しい」
ヘラグとフレイは笑った。あえて死を覚悟する者、死を恐れる感覚すらない者、必死に生き延びようとする者、人間性や思いはそれぞれだが、誰も諦めていないのは間違いなく救いだった。
ヘラグはふと、トールを思った。トールの実力なら、簡単には死なないだろうが……。敵を倒す、自分が生き残る以外の、余計な事をしそうなヤツではある。
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