第6話 - 3 絶対王者、フレイ無双 ~トール、シンシアとフェスを楽しむ
獅子王杯は、お昼の休憩に入った。近くの噴水広場は、多くの出店やパフォーマーで賑わっている。まるで、フェスのような賑わいだ。
その中に、横に並ぶトールとシンシアの姿もあった。あの日以来、二人は度々、放課後に残って自主練習をする仲である。こうして二人でランチをするのも、ごく自然な展開だ! と、シンシアは計算している。
ケヴィン戦の勝利によって、トールはちょっとした有名人だ。ちょくちょくと応援の声をかけられたり、握手を求められたりする。慣れないトールは、困惑ぎみである。
酒に酔って、だいぶ出来上がっているオヤジが話しかけてきた。トールに賭けて儲けたらしく、ありがとう! ありがとう! と、何度もトールの背中を叩く。ふと、シンシアに目を向けて、
「めんこい彼女さんだね~、騎士様を負かすくらいになると、連れてる女のレベルも高いね~」
何、言ってくれてんだ! このオヤジは! トールは慌てて、チラっとシンシアの様子を伺う。……あれ、笑ってる? そうかシンシアは、酔っ払いの戯言ごときには動じない、大人なんだな。これくらいで動揺してしまう、自分が情けない。
「いえいえ、ma……違いますよ! 彼女とは学院の同級生で……」
ん? 今、「まだ」と言いかけた? ほんの微かな発声を、シンシアは聞き逃さない。
酔っ払いオヤジは、二人の顔をしげしげと見ると、一つ納得したように頷いた。
「悪かったな、兄弟! 大切な時期に、水を差しちゃいけねえな」
主に負け戦ではあるが、恋愛で百戦錬磨のオヤジの嗅覚は鋭い。この短いやり取りで、二人の友達以上恋人未満状態。まだ気持ちを探り合って、臆病にも踏み込めない心境まで、おおよそ全てを感じ取った。じゃあな! と後ろ姿で手を振り、雑踏の中に消えていく。
……気まずい。シンシアにとって、自分はあくまでも学院の同級生で、剣術を通じた友人に過ぎない。もしかしたら……と、つい錯覚したくなるが、そんな思いを悟られてはいけない。断じて、イタイ勘違い男にはならない!
「なあ、シンシア」
「何?」
「とりあえず、あの店でどうかな?」
「良いわよ」
トールは、何屋かも判らず適当に目の前の店を指さす。シンシアの様子が、明らかにおかしい。さすがに、気を悪くしたのだろうか?
お店は、トマトベースの煮込み屋だった。ややフェス価格で値段は張るが、当たりだ! 美味しい! シンシアも、普通に話すようになってくれている。とりあえず一安心。さっきのオヤジとのやり取りには、触れないようにしよう。
シンシアは、感情と動揺を外に出すまいと必死だった。……彼女さんって!? それにさっき、「まだ……」って言いかけたよね? ダは聞こえなかったけど、ダの前の息遣いは聞こえた気がする! え、どうなの? 私、恋愛対象として意識されてるの!?
……その様子を、噴水越しに遠目から凝視する長身の女性。メアリーは、急速に世界がぼやけ、どす黒い怨嗟が込み上げてくるのを感じた。
彼女はこの時、初めて嫉妬を知った。
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