第34話 - 1 首都、攻防戦2 ~意地の悪い神
オーシア王城の戦い五日目の朝、混成軍はオーシアにあるメッセージを送った。直接、城攻めに参加せず待機する兵4万を、北に向けて進行させたのである。「放置すれば、オーシア領土の北側を蹂躙する」とする意図は、明らかだった。
即座に、オーシアは3万の兵を編成。後を追うべく城の外へと出た。当初、混成軍はこの3万を素通りさせ、城攻めを優先させる姿勢を見せた。しかし北に進行した4万は反転し、オーシア軍と正面からぶつかる。合わせて混成軍は2万の兵を送り、倍の数的優位をもって挟撃する体勢を作った。
ここまでの筋書きは、全てパンナロッサ軍参謀:カチュア=ケイド中尉の思惑どおりだった。一般市民への蹂躙を脅迫として戦術に持ち込んだこの行為が、後に『氷のカチュア』の異名を決定づける事となる。
オーシア軍に、この兵3万を救済する余力はなかった。彼らは敵軍の最中で見捨てられ、孤立する形になった。しかしオーシア側も、その目論見は想定の内にある。混成軍の第一の狙いが、兵の分離にあるのは間違いない。目的が分離である以上は、場外に出てすぐに迎え撃たれるとは考えにくい。ある程度の地点までは、行かせるだろう。そして次に考えるのは、この3万の兵の扱いである。放置して良い規模ではないので、確実に潰しにかかる。
現在、置かれている状況を想定して、オーシアには事前に決めている行動があった。一軍としてではなく、兵が個人として四方に逃走するのである。逃げ延びた兵は、機が来るまでそのまま潜伏する。北を蹂躙するならゲリラ戦に移行し、引くなら折を見て再集結し、臨機応変に作戦行動を取る。
この三万の内に、カリムの姿もあった。逃走は各々、全力で行う。数的に圧倒的な不利である以上、一切の交戦は無意味。決して、味方を庇って立ち止まってはいけない。
理屈は嫌でも理解できるが、性には合わんな……。カリムは山中を駆けながら、神に願った。だがカリムが祈りを捧げた存在は、意地が悪いらしい。カリムの目に、複数の混成兵に囲まれるオーシア兵の姿が入った。見れば、若い女性だ。
「見ちまったもんは、仕方ねーよな……」
カリムは戦斧を振り上げ、突進。一人を斬り伏せ、振り回した次の太刀で二人目を屠る。不意打ちが効いたのは、ここまでだった。残りの混成兵は距離を取り、分散して周囲を囲む。
――この戦いにより、カリムとその女性兵士は命を落とした。
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