第33話 - 6 首都、攻防戦 ~北城壁の崩壊
「北だ! 北に急げ!!」
オーシア王城の戦い、三日目午後。西城壁を守る兵士に、北城壁崩壊の急報が入った。想定外の崩壊に、混乱が生じる。昨日まで、いや今日の午前中の段階ではまだ余裕があったはずだ。
王立騎士団は、命令が下される前に、騎士団長:アイゼキューターの判断で北に向かう。西城壁が盤石とは言えないが、内部に大軍が入られては終わってしまう。
北城壁に駆け付けた彼らが見たのは、やや奇妙な光景だった。そこに空いた横幅10メートル程の穴は、まるで自然に老朽化し崩れ落ちているかに見えた。守るオーシア兵の肩に触れた部分が、脆くも剥がれ落ちる。
しかし幸い、まだ城内への侵入は許していない。穴の入り口でオーシア兵が立ちふさがり、均衡を保っていた。中でも、最前列中央にある巨漢兵士の奮闘が目立つ。巨大な戦斧を大雑把に振り回し、敵を寄せ付けない。
「やるじゃない! カリム」
その背中に、シンシアが称賛を送る。アラド=クラーゼン学院を卒業後、カリムは兵士となり西の国境に配属されていた。首都ヴィルキスに迫る混成軍の存在を知り、単身で抜け出し、今この場にいる。
突如、穴の前から混成兵が左右に散った。代わりに二基の破城槌が、兵に押されて車輪を転がす。怒声とも奇声ともつかない声と共に、鋭く尖った巨大な杭が襲い掛かる。
「うぉおおりゃー!!」
カリムはその一基に、真上から戦斧を振り下ろした。左前車輪を破壊、突進を止める。刹那、破城槌の陰から小兵が跳躍。カリムの顔面に、槍の穂先が迫る。戦斧を抜こうとした分だけ、カリムの対応が遅れた。
顔面に到達する寸前、穂先は力なく軌道を乱し、カリムの頬をかすめる。――目の前には、敵の胸を貫くシンシアの姿があった。それが在学中、幾度も目にした空中浮揚、神足の踏み込みが成した技と察し、カリムは高揚を覚えた。
一瞬、シンシアはカリムを振り返った。その表情には、明らかに見せつけんとする誇らしさが込められていた。
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