第33話 - 4 首都、攻防戦 ~女神の炎装
ぼんやりと、トールは意識を取り戻した。肉体には治療された痕跡があり、エディンバラ騎馬に跳ね飛ばされて負傷したのだと、直ぐに察した。人のいる気配と、複数人の声。現在の状況は?
起き上がって簡易天幕から出ると、遠くに地上戦が行われている姿があった。周囲には、負傷兵とそれを看る衛生兵。この見慣れた地形は、ロルド要塞からやや後退した位置と知れた。
「トール中尉、気付かれましたか!」
左方から、若い衛生兵に声をかけられる。
「ありがとう! 貴方達には、お世話になったようです。今回は不甲斐なく、申し訳ありません」
深々と、トールは頭を下げた。
「とんでもありません! 生死の狭間から生還された事、我ら一同、喜びの極みです」
「え!? 僕、死にかかってたの?」
「はい、医師の見立てでは、死ななかったのは奇跡だと……」
トールはこの衛生兵から、自分が気を失っていた間の状況を聞いた。トリッツ城の陥落、パンナロッサ方面からのオーシア首都急襲、自分達は敵の足止めに残された三分の一であること。
一言だけ礼を告げると、剣を取り、トールは前線に走り出した。胸に激しい痛み、発熱とダルさも残るが、十分に戦える。
「……え、何で走れるのですか?」
その遠ざかる姿を、衛生兵は呆然と見送った。
――数的に不利でありながら、オーシア軍は善戦していると言える。これには、カーディーの才能開花が大きい。彼の異能『攻撃の矢印』は、方向性だけではなく強弱も伝える。攻勢の強くなるエリアに人を回す、弱くなるエリアでは攻勢を強めるといった緻密な用兵が、オーシア軍の被害を最小限に留めていた。
そしてトール百人隊の働きは、特筆すべきものだった。隊長を殺されかけた事で、否が応でも士気が高まっている。中でも副隊長メアリーは、鬼神の如く敵を圧倒する。またその姿は、敵と味方を驚愕させた。全身に炎をまとい、斬られた者は傷口から身を焼かれた。不思議な事に、自身には髪にさえ着火しない。フラカミニアを極めた者だけに宿るとされる異能、『女神の炎装』が発現した姿である。
「待たせたね、女神様」
メアリーの隣に、トールが並び立つ。
「トール! 動けるの!? 大丈夫!?」
「うん、もう大丈夫。この窮地、切り抜けよう!」
トール百人隊と周囲の兵から、応と歓声が上がった。
♪ この作品を読んで、「面白い!」、「続きが気になる!」、と感じてくださった方は、下の「☆☆☆☆☆」から、応援をお願いします。
ブックマーク、ご感想なども、とても嬉しいです。