第32話 - 2 大攻勢 ~ロルド要塞
オーシアはエディンバラ方面に15万人の兵を揃え、進軍を開始。エディンバラ軍は戦わず、モスリナなどの占領地を放棄。オーシアはその後を追い、エディンバラ領内深くに進行した。
行程にある町や村に人はおらず、家畜や物資など持ち運べる物はほぼ全て引き払われていた。その徹底ぶりから、かなり前から準備された行動であると知れた。
進軍五日目。空になった村を宿とし、夜を過ごす。
「敵に遭遇するなら、まずここでしょう」
そう参謀長が指し示したのは、ロルド要塞。周囲は巨大な奇岩で覆われ、自然の地形を活かした堅固さで知られている。奇岩を大軍が超えるのは現実的ではなく、ロルド要塞を陥落させない限りは、その先の首都には届かない。エディンバラ公国にとって、最強にして最後の砦であった。
「……しかし奇妙だな?」
今作戦最高指揮官、エーデルクランツ=マイン上級大将が口を開く。代々が軍の要職に就く伯爵家の現当主であり、今回の戦争で地位に相応しい実力を認めさせた人物である。もしもエーデルクランツがいなければ、オーシアは今の倍以上、領土を失っていたと言われている。
「何がでしょうか?」
「数の不利を要塞戦で補うという考え方は、理に適っている。しかし、彼らは侵略者だ。いくら数で劣るとは言え、戦い方はある。せっかく手に入れた果実を、こうも易々と手放すものだろうか?」
「……確かに、言われて見れば不気味ではあります。けれども、こうは考えられないでしょうか? トリッツ城をパンナロッサが失い、全ての計画が狂ってしまった。弱気になり、領土を失ってでも守りに徹したのでは?」
「そうとも考えられるが、何れにしても解せん。戦いながらこの肌で感じ研究してきた彼らの姿とは、どうにも違和感がある」
「しかし閣下、我らに託された任務は一戦を交えての勝利です。敵がロルド要塞に戦場を定めたなら、他に選ぶ道はありません」
「うん、その通りだな……」
エーデルクランツは、釈然としない様子で頷いた。
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