表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/167

第6話 - 1 絶対王者、フレイ無双 ~軍上層部からの悪ふざけ、ダングリオン

 フレイの出場試合には、オッズが付かない。1.001と100.0みたいな数値になって、ベットする人物がいなくなるからだ。1.001では0に等しいし、100倍になるとは言っても、ほぼ100%で負けるものに大金は張らない。つまり、ビジネスにならない。仮にケヴィン戦が実現したとして、それでようやく1.07と7.5といったラインになる。


 だが一回戦の相手ダングリオンに限っては、やや状況が異質であった。ダングリオンは、国軍第二歩兵隊に所属する。武器の扱いは並程度であるが、ある異能を買われて現在の地位にある。今回の獅子王杯のエントリーは、軍上層部の悪ふざけのようなものだ。


「始め!」


 絶対王者フレイと、悪ふざけ出場・ダングリオンとの試合が幕を開ける。


「……? へえ、面白い異能をお持ちだね」


 試合開始と同時に、ダングリオンの質感が変わった。浅黒くくすんだ肌色が、光沢を帯びる。異能、特殊鋼化である。これによりダングリオンは、鋼鉄の10倍の強度を得る。特殊鋼化は全身を覆い、弱点となる箇所もない。


 だが、弊害もある。元より、このずんぐりむっくりした体形では、敏捷さは期待できない。加えて特殊鋼化中は、極端に動きが制限される。剣術大会において、如何に勝利を収めるつもりなのか?


 そこが、軍上層部の悪ふざけである。勝てない代わりに負けもしない、剣士でもない人間を送り込んできた。


 獅子王杯に限らず、剣術大会の全体で言えることだが、時間切れによる引き分けは想定されていない。打ってもダメージを与えられないのだとしたら、ルール上の決着は何をもって行うべきだろうか。


「さあさあ、打って来な! 表舞台のお姫様よ」


!?


 明らかに嫌味や皮肉の類だとは解ったが、お姫様と言われて、フレイに悪い気はしない。


「じゃあ、試してみますかね……っと!」


 とりあえずフレイは、ごく普通に打ち込んでみる。キンッ! かん高い打撃音と、人の肉とは思えない頑強な感触。何度か場所を変えて打ってみるも、結果は同じだった。……当然、ダメージを与えていそうな様子もない。挑発的なニヤケ顔が、生理的にかんに障る。


 実戦であったなら、ダングリオンの異能はフレイの相手にもならない。おそらくフレイが持つ実剣であれば、一刀の元に両断できるであろう。だが試合用の木剣では、剣そのものの強度で負ける。如何にフレイが強力であっても、硬度の差を埋める術はない。


「ほらよ!」


 ダングリオンの不格好な横殴りの剣が、フレイの顔面を狙った。避けるのは造作もない。


「ぐへへへ! 俺から攻撃しないとは、言ってないぜ?」


 さて、どうしたものか。と、フレイは考える。とりあえず、少し強度を上げて打ち込んでみるも、予想通り結果は同じ。ミシッという音と感触、遂には木剣の方が負け、深い亀裂が入ってしまった。


 フレイは手を上げ、審判を呼んだ。ただしルール上では、折れた剣の交換は認められていない。二言、三言、言葉を交わし、フレイはにっこりと笑った。……無造作に、ダングリオンに歩み寄る。


 あまりに無防備に間合いに入って来られたもので、ダングリオンは攻撃の機を逸した。もっとも機に乗じても、当たりはしないが。


 フレイは、腰を落とした。同時に、ゆっくりと右拳を腰に引くと、フッと一息で正拳を鳩尾にぶつける。ギャキン! 高らかに響き渡る、金属の破壊音。……ダングリオンは腹部を押さえ、ゆっくりと前に倒れ込んだ。


「うぐぐぐぐ……」


 と、苦鳴が漏れる。


「私に勝ちたいなら……嫌がらせかな? もっと、ちゃんとルールを確認しなさい! 私の拳が、なんちゃら金属よりも柔らかいはずないでしょう?」


 ダングリオンを見下しながら、右拳に軽くキス。これが様になるから、フレイは怖い。


「勝者、フレイ!」


 勝ち名乗りを高らかに受け、フレイは観客の大歓声に手を振って応える。絶対王者の貫禄、ここに有りだった。

♪ この作品を読んで、「面白い!」、「続きが気になる!」、と感じてくださった方は、下の「☆☆☆☆☆」から、応援をお願いします。


 ご感想、ブックマーク登録も、とても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ