第31話 - 6 戦死 ~軍師の発掘
トール百人隊にも、何人かの異能持ちが加入した。身体強化系・感覚強化系は特に戦闘との相性が良く、積まれた実戦経験により、それぞれがスタイルとして確立されている。その中において、トールの興味を強く引く人物があった。
名はカーディー、やや小柄で小太りの中年男性。誰が見ても、パッとしないという印象を持つであろう。槍使いではあるが、訓練の動きを見る限り、取り立てて達人という程ではない。どちらかと言えば、動き自体は鈍い方だ。
しかしトールは、カーディーの戦う姿に違いを見出した。防御が固く、隙を突くのが上手い。動きの鈍さを、反応の良さで補って引けを取らない。いや反応が良いというよりも、攻撃を予期しているかのようだ。
試しに、トールはカーディーと軽く打ち合ってみた。攻撃を予期しているという見立ては、すぐに確信に変わった。そしてトールのように、殺気に反応しているでもない。殺気のフェイントには無反応で、気付いてさえいない様子だった。
そこでトールは、カーディーの見えている世界を尋ねた。
「子供の頃から、矢印が見えるんです……」
聞けば、カーディーは物理的な攻撃の全てが矢印で予期できるらしい。剣や槍は、現実にそれが来る寸前に矢印が襲ってくる。弓の雨も全ての軌道が矢印で見えるため、自分はただその空白に身を置くだけで避けられる。
これは素晴らしい! トールは感嘆した。しかし同時に、カーディーの限界も悟った。いくら矢印で予期できても、反応を超える数や鋭さの前には無力だ。今まで生き延びて来られたのは、敵との巡り合わせに助けられてきた部分が大きい。その事はカーディー自身も重々、承知していた。
「いえね、私だって自分が鈍いことくらいは解っています。だからその内に、死ぬんだろうなあ……って、たまに考えます。ハハ……死んだところで、こんな己の身を守るのが上手いだけの男ですから、大した損失でもないでしょうけどね」
「いえ、そんな事はないです! 自分の命を軽んじないでください!」
「あ、でもね、この矢印の力で仲間を助けた経験もあるんですよ! 突然、敵の大軍が意表をついてこちらに曲がってきた事がありましてね。間一髪で逃げられなければ、きっと私のいた小隊は全滅だったでしょう」
「敵の大軍……?」
「はい」
トールは、カッと目を見開いた。
「その矢印は、大勢の敵であっても有効なのですか!?」
「ええ、まあ……」
カーディーは戸惑いを見せた。その能力の価値を、彼はまったく理解していなかった。――トール百人隊は、ここに軍師の才を発掘したのだった。
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