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第30話 - 5 トールの長期休暇 ~トールに男らしさを求めてはいけない

 まあ、良い機会かもね……。シンシアは覚悟を決めた。私もトールも、メアリーだって、ずっとこのまま曖昧ではいられない。どこかで、ハッキリさせないと。


「分かった! じゃあ良い機会だから、ハッキリさせましょ! 私は1年生の頃から、ずっとトールが好き。でも、付き合ってはいない。メアリーは?」


「え、あの……はい、私も好きっていうか……」チラっと、トールとシンシアを見やる。シンシアの自分に向けられた眼差しに、観念する。「友達っていう感じじゃなくて、あの……好きです」


 突然の二人からの告白に、トールの思考が飛んだ。凄く嬉しい! という感情以上に、ここでの身の振り方は絶対に間違えられないという強い圧を感じた。


「それで、トールはどうなの?」


 トールは、押し黙った。シンシアのことは、間違いなく恋愛対象として好きだ。自分だって1年生の頃から、いつの間にか好きになっていた。あの夜の出来事から、その気持ちはより強い確信になっている。


 じゃあメアリーは……、シンシアのように明確な感情ではないけれど、間違いなく惹かれてはいる。モスリナで命をかけて助けてもらった恩から、シンシアとは違う強い思いがある。魂のつながりのような……。


 今、どちらかを選べば、どちらかを傷つける事になる。だからと言って、この状況で誤魔化せるものではないし、真剣さには真剣さで返さなければ失礼だ。トールに、今の正解が見つけ出せない。


「それじゃあ、私はそろそろ帰りますね! シンシア先輩とメアリーさんのお気持ちは解りましたし、それにこんな修羅場になったんじゃ、いくら私でも自分が場違いだって事くらい解ります。……昨日今日、会ったばかりの私じゃ参戦する資格もないですしね!」


 勢いよく、ルイーゼは席を立った。


「……ただ、意外にも強くショックを受けている私がいて、自分でも、こんなに好きになりかけていたんだって驚いています。先輩のお姉さん方、頑張ってくださいね! あとトール先輩、実は今日……お金を持っていなくて……」


「出してあげるから、良いよ」


「本当ですか!? すみません、ご馳走になりまーす! では皆さん、失礼します!」


 小走りで退場するルイーゼを、三人は呆然と見送った。一拍置いて、クスクスとシンシアが笑い出す。つられて、トーリもメアリーも笑った。


「良い子ね、あの子。あれで、気を使ってくれたのよ」


 あの場面では、トールの返答次第では、かなり良くない状況になったのは間違いない。ルイーゼはその空気を察して、わざと明るく空気を変えてくれた。


 優しさに振り切ったトールに、こういう時の男らしさを求めてはいけない。シンシアはつくづく、自分に言い聞かせるように思った。

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