第30話 - 4 トールの長期休暇 ~どちらかが恋人なんですか?
「トール!」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはメアリーの姿があった。銀のおかっぱ髪は背の中ほどまで伸び、顔つきは凛々しさを増している。細身のより鍛え上げられた肉体と気配から、破格の強さが伝わってくる。トールは、感嘆せずにはいられなかった。
「驚いた! 久しぶりだね、メアリー! ……それに、何だか見違えたね。でも、どうしてここに?」
トールは、後ろのシンシアに目をやる。
「トールが休みで戻って来るって、教えてあげたの。そうしたらメアリー、どうしてもトールに会いたいって……」
「ちょっと、シンシア!」
慌てて、顔を赤らめるメアリー。どうやら大人っぽくなったのは外見だけのようだと、トールは安心した。
トールとメアリーは、互いの生存を喜び合った。メアリーの話から、エディンバラ公国方面の防衛戦は均衡状態にあると知る。ここ数か月は小競り合いで大きく仕掛けても来ず、逆に不気味だと皆が囁いている。
メアリーはまだ戦場に慣れず、思うように実力を発揮できていないらしい。剣術の試合と戦場とは、まったく違う世界。メアリーほどの存在であっても、やはり時間はかかるのだろう。
――ふと、黙していたルイーゼが、口を開いた。
「あの、トール先輩。つかぬ事をお尋ねしますが、シンシア先輩とメアリーさん、どちらかが恋人なんですか?」
場の空気が、一瞬にして固まった。
「だってさっき、シンシア先輩とどうなんですか? って訊いた時も、何だかイエスともノーとも答えずに態度が曖昧だし、メアリーさんともそんな空気が流れてるし……」
いきなり、何をぶち込んで来るんだ!? この子は!! トールは言葉に窮した。シンシアとはあの夜以来、特にそういった話はない。戦う前に変に動揺してああなっただけで、恋人気取りは迷惑かも? そう考えて、踏み込めずにいた。メアリーとは、モスリナの件以来、やはり少し意識はしているけれど……。
「あの……」重い空気の中、メアリーは消え入りそうに声を発した。「それが気になるって事は、ルイーゼさんもそうなの?」
「いえ、私はトール先輩とは会ったばかりですし、まだ恋愛感情っていう感じじゃないです! でも正直、トール先輩って凄くてカッコイイですし、性格もめちゃくちゃ良いじゃないですか!? もしもフリーだったら、狙っちゃおうっていうのはありますよね! で、どうなんですか?」
メアリーは、あまりの文化圏の違いにフリーズした。シンシアは、何てオープンな子なの!? と呆気に取られた。
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