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第30話 - 2 トールの長期休暇 ~トール先生、心をつかむ

 エレナ学院長に「上がれ!」のハンドサインを送られ、ルイーゼは檀上に立った。歩き姿の挙動が荒く、如何にも渋々という様子。これは流石に人選を誤ったかな? と思ったが、トールはルイーゼの目に宿る好奇と期待を見逃さなかった。


 トールに敵愾心てきがいしんを含みつつも、その力は認めざるを得ない。今から自分が強くなると言うのだから、胸が躍って当然だ。ルイーゼは観客に聞こえないように、


「これ以上、私に恥をかかせる気じゃないでしょうね?」


「大丈夫だよ。安心して」


 気を使って、トールも小声で返す。ルイーゼの顔に、微かに安堵が浮かぶ。僕はいったい、この子に何だと思われているんだ? トールは不安になった。そういう意地の悪い人間に見えるのだろうか?


 あ、そうだ剣……と思った瞬間、


「トール!」


 会場脇のエレナが、木剣を投げて寄越してきた。不必要な高速回転をしながら不必要な勢いで襲いかかるそれは、容易くトールの伸ばした右手に収まった。会場が、オー! と、どよめく。


「学院長! いえ、取れますけど!」


 手を叩いて笑うエレナ。まったく、悪びれる様子もない。


 ……? ポカンと、ルイーゼがトールを見つめる。そこには、明らかに尊敬や憧れといった色が含まれていた。


「じゃあ、この剣を大上段に構えて、普通に真っ直ぐに振り下ろしてみて」


 素直に、ルイーゼは従う。生徒の誰もが、まったく問題のない普通にレベルの高いフォームだと思った。


「次に、背中の上のこの骨を持ち上げるように、大上段に振り上げてみて?」


 言われるように上げ、ルイーゼは驚愕した。先程とは、比べ物にならない軽さだ! 格段に軽くスムーズに、大上段の構えが完成した。


「では次に、この骨の力を抜いて、その流れで振り下ろしてごらん」


 今度は、恐ろしく切れ味の鋭い上段斬りとなった。まったく、力を入れてもいない。その違いは、観客の生徒の目からも明白だった。


「先生! 凄いです!」


 ルイーゼの声が弾む。


「いや、先生ではないけどね。これが、僕の言っていた合理性だよ。より合理的だから、より速くスムーズに構えが完成する。剣速も威力も別物になる」


 うん、うん、とルイーゼは、大袈裟なまでに頷いて話を聞いた。……トールの心に、至福の満足感が宿る。これは癖になる。戦争が終結したら、本当に先生になるのも良いかもしれない。


「でもね、まだこれは入り口。何度も何度も反復練習をして、無意識にこれが出来るまで体に刷り込ませるんだ。そうやって一つ一つ、完全に自分の技にするんです。……じゃあ、幾つかお勧めのを教えるから、皆も頑張って修得してください」


 トール先生は、完全に学院生の心を掴んだ。

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