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第29話 - 5 離島の戦力 ~完璧な仕事

 アラド=クラーゼン学院筆頭を決める戦い?は、速やかにお膳立てされた。何よりも学長、エレナ=クラーゼンの乗り気が凄い。翌日の午後、全ての講義は中止。隣接する闘技場にて、二人は対峙した。全校生徒は、観戦を強制される。もっともこの観戦は、殆どの生徒の望むところであり不満はない。


 この戦いには、生徒に見せる大きな意義がある。ルイーゼは、純粋に剣士としては優秀な方くらいの位置づけだ。そこに強力な異能が組み合わさる事で、総合力で学院生最強の地位に到達してしまった。これが他の生徒たちに、意欲低下の悪影響を及ぼしている空気は否めない。


 そこでエレナは、トールに一つのお願いをした。トール・ハンマーを使わず、普通の剣士としてルイーゼを倒して欲しい。皆に、自分が歩んでいる道の先を見せて欲しい。トールは、これを快諾した。


 しかしエレナは、ルイーゼの異能については何も伝えなかった。対戦相手に第三者がその情報を明かすのは禁忌であるし、それ以前にトールがどう対応するのかを見たかった。


 懐かしく、トールは闘技場を見渡す。もっと広いと思っていたけど、少し小さく感じるな……。


 そして目の前には、やる気にみなぎる対戦相手。このシチュエーションもまた懐かしい。ルイーゼが持つのは試合用の木剣ではなく、先端を丸くし刃のない鉄製のもの。重量はほぼ木剣と同じで、刀による有利不利はないと聞く。ルイーゼに合わせた特注なのだそうだ。聞いた異名は電撃娘。異能の正体は明かされずとも、ここまで判断材料が揃えば誰でも察しが付く。


 会場の空気が緊迫している。この空気感は、勝つのはどちらだ!? だ。ルイーゼとは、それ程までの剣士だと言うのか?


「いざ尋常に……、始め!」


 号令と共に、ルイーゼが間合いを詰める。小刻みな連撃を、トールはバックステップで全てかわす。ここでトールに、違和感が生じる。速いがどれも手打ちで、強さを感じない。だが電撃娘だと言うなら……。


 トールはその一つに、剣を打ち合わせた。破裂音と飛び散る火花、火を上げる木剣。


 ここでトールは、全てを理解した。ルイーゼの剣は、少しでも肉体に触れればその時点で終わる。だから威力など必要なく、当てる、いや触るだけで良い。木剣で受けるのも、そう何度もは持たない。これでは他の生徒からは、不公平なハンデ戦を強いられている感覚だろう。


 一振りして、トールは木剣を鎮火させる。ルイーゼの表情から緊張が減り、やや余裕が伺える。自分の剣は通用する、勝機あり! といったところだろう。


 これなら異能頼みになるのも、仕方ないな……。トールは藍玉蜂あいぎょくばち、一年生当時のシンシアを思い出す。構えと剣筋を見たところ、レベルはあの頃のシンシアと同じくらいか?


 剣は最小限にしか動かさず、振らず、隙を作らない。接近した時、とにかく先に触る事に特化した剣術が間違って完成している。


 トールはルイーゼの剣が上がるのに合わせて、最速で踏み込む。スレ違いざま、背中を大怪我しない程度に強打。――その衝撃に、ルイーゼの意識は絶たれた。


 数秒の静寂の後、会場は大喝采に包まれた。


「与えられた課題を完璧にこなす……か。相変らず、優等生だな」


 エレナはほくそ笑んだ。

予告:第30話 トールの長期休暇


 場の空気が、一瞬にして固まった。


「だってさっき、シンシア先輩とどうなんですか? って訊いた時も、何だかイエスともノーとも答えずに態度が曖昧だし、メアリーさんともそんな空気が流れてるし……」




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