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第29話 - 2 離島の戦力 ~流刑島出身の小説家

 エディンバラ公国の東、約290キロに位置する孤島は、かつては流刑の地であった。建国当初のオーシアは死刑が廃止され、従来のそれに該当する者はことごとく流刑とされた。当時も今も正式な名称はなく、ただ流刑島と呼ばれている。


 しかし流刑囚7000人を超えると、収容は限界に達する。囚人の暴動によって、オーシアはこの島の統括を失った。オーシアは島の秩序を回復させるよりも、新たなコストを嫌った。島の管理は放棄され、そこには罪人の集団だけが残された。以降の約150年間、島の状況は正確には把握されていない。


 オーシアの小説家、モフは5年前に『流刑島の濃霧』を発表。流刑島に残された囚人が社会を形成し、現在もその子孫が暮らし続けている様子を描いた。残念ながらヒットとはならなかったが、この作品がジャミル=ミューゼルの目に留まった。フィクションと言うにはあまりに現実味が強く、また一般に開示されていない事実が含まれていた。


 その中で、気になる部分があった。流刑島はオーシアの粛清に備え、兵を鍛えている。数は五千人規模。彼らの屈強さは、オーシアの精鋭と並ぶかそれ以上。


 この話が事実であれば、無視できない戦力となる。仮にエディンバラ公国に付くような事になれば、戦力バランスも大きく変わり得る。


 ――ジャミルは自らの足で、モフの家を訪ねた。現れたのは、どこにでもいそうな普通の青年だった。だが一見の印象とは裏腹に、鍛え上げられた肉体は衣服の上からも伺い知れる。


 モフがあっさりと打ち明けた事実は、衝撃的だった。


「君が小説を発表したのは、オーシア国民に流刑島の事実を知らせ、彼らを救おうという願いからかね?」


「いえ、私はもう島に未練はありません。馬鹿げた宗教を信じ込み、誰も私が生贄になるのを止めようともしなかった」


「ならば何故、小説の発表を?」


「私は本当は、小説一本で食って行きたいと思っています。私が生まれ育った流刑島は、面白い題材になると思ったんですよ。……まあ、結果はからっきしでしたがね。正直、このネタで無理なら、私には才能や運っていうものがないんでしょう」


 ジャミルは、モフをいぶかしんだ。彼の話が本当なら、ただ小説家として成功したい為だけに、あのような危険な題材を選んだという事になる。それがオーシア国内で禁忌とされ、自らに危険が及ぶとは考えなかったのだろうか? 生まれ育った環境が異なる故に、その辺りの感覚も違うのかもしれない。


 だがこれで、流刑島の情報提供者が獲得できた。ジャミルはモフに、報酬と引き換えにオーシアへの協力を打診した。何よりも、小説『流刑島の濃霧』のプロモーションの話で、目の色が分かり易く変わった。

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