第28話 - 3 トリッツ城の攻城戦 ~交戦なし
「何をしている!? 早く入れ!」
千人隊長、ゴードン少佐の怒声に、オーシア兵は我を取り戻した。破壊された城壁の下は、亀裂が入り陥没している。その両横に残された狭い足場から、一人ずつ城内に入り込んでいく。
地上に迎え撃つ部隊はない。城壁上から降ってくる弓は組織的な攻撃とは言えず、侵入を拒むほどの脅威ではなかった。
攻城塔の倒れた先端部分が、引き戻されていく。その姿に、パンナロッサ兵は戦慄する。現場指揮官は、ただ部隊の退却を命じるしかなかった。トールは既に部隊の中にあり、この攻城塔に脅威はない。しかしパンナロッサ側に、そう察せられる材料はなかった。
侵入したオーシア兵は、城壁内側に布陣していく。パンナロッサ兵の姿はない。
「城壁を破られたんだぞ? ……拍子抜けだな」
あまりに平穏な城内の様子に、ヘラグは不満を漏らす。
「あんなデタラメな破壊力を見させられたら、無理もないわよ。味方が引いたくらいだし……」
応じたシンシアも、呆れた様子だ。これはもう戦いではなく、相手からすれば降って湧いた理不尽でしかない。
「敵さんは、どう出ると思う?」
「……そうね、戦える数が揃っているとしても、相当、兵も動揺しているはず。士気を立て直して交戦っていうのは、無理があるんじゃないかな」
「ちっ、腰抜けどもめ! ん?」
そこに、一人の女性が近づいて来るのが見えた。両手を上げ、目視できる範囲で武器の携帯はない。
弓を構えようとする若い兵を、ゴードンが制する。
「私はパンナロッサ軍、カチュア=ケイド少尉だ! ここの最高司令官にお目通りを願いたい!」
「敗戦交渉ね……」
ヘラグは、心の底から残念そうだった。
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