第27話 - 4 ヒアリ平原の戦い ~謀殺の失敗
「どのように失敗した?」
赤髪の兵士、謀殺失敗の報を受け、カチュア=ケイド中尉は淡々と経緯を尋ねた。特に、落胆や悔しさといった反応もない。
オーシア兵に潜ませた間者は、背後から赤髪の兵士の死角に入った。しかし間合いに足を踏み入れた瞬間、首を斬られた。間者はまだ攻撃姿勢を取っておらず、傍からはただ近づいただけの味方が、意味もなく殺されたように見えたと思われる。
背後に剣を振る際、赤髪の兵士は間者の方を最初から最後まで見なかった。姿を確認せず、剣だけを振るって命を絶った事になる。特に彼に危険を知らせる声も聞こえなかった。
「分かった。下がって良い」
伝令の報告に、カチュアは思考を巡らす。360度に目が付いているような戦いぶり、間者の姿を視認せずに斬る、……おそらくは、自分に向けられる殺気や害意に反応していると考えられる。
厄介な敵ではあるが、これだけで戦況全体に影響が及ぶ訳ではない。ただ間者が何の成果もなく殺されたのでは、成果と損失との帳尻が合わない。一つ、どう転ぶかは解らないが、謀略でも仕掛けてみるか……。
――パンナロッサ軍が、撤退を開始した。傾斜上部まで押し込まれ、予定された潮時であった。
「1500と2000くらいか?」
「はい、私もそう思います」
カチュアの問いに、副参謀が同意する。この数字は、両軍の戦死者、戦闘不能の重傷者数の見積もりである。地理的優位にあったパンナロッサの方が少数ではあるが、事前の想定よりも苦戦している。成績としては、褒められはしない及第点といったところだ。
戦いの場は、トリッツ城へと移される。
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