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第5話 - 2 獅子王杯、初戦 ~ケヴィン戦の開幕

 トールにとって、騎士は雲の上の存在だ。トールに限らず剣士を志す身であるなら、騎士に憧憬どうけいを抱かない者はいない。しかもエイダ騎士団のケヴィンとなれば、その中にあっても頭角を現す別格である。


 うわ、カッコイイ! 自信に満ち溢れて見えるケヴィンの立ち姿に、トールは圧倒された。強そう、なんてもんじゃない。自分も強くなった自覚はあるけれど、何も出来ずに負けてしまうかもしれない。トール・ハンマーだって、学院長には通じなかった……!


 学院長がトール・ハンマーをさばけたのは、あくまでも来ると解っていたからであるが、その辺りの判断はトールには出来ない。トールの主観では、赤子の手をひねるが如くの敗北になっている。


「始め!」


 試合開始が宣言され、重厚な銅鑼どらの音が響く。


 心の準備が遅れたトールであったが、ケヴィンはその機を活かさなかった。学生を相手に騎士が戦うのだから、そこには空気がある。開始直後の猛攻など、野暮はしない。しかし後から見れば、ここがケヴィンにとって、最大の好機であった。


 トールは間合いを遠く取り、時計回りにしてケヴィンの様子を伺う。仕掛ける前に、少しでも情報が欲しかった。


 と、ケヴィンが構えを解き、笑んだ。右手でクイクイッと、「来い!」のジェスチャーを送る。その表情と仕草から、「ほら、どんなもんか見てやるから、とりあえず掛かって来い」という意思まで伝わってきた。


 挑発に、トールは乗った。というより、ムッとした感情を、あえて肉体を動かすスイッチに利用した。上段の軽打を受けさせ、脇腹を打つ。だが踏み込んだ先に、既に相手はいなかった。左方から、首の後ろを刈りに来る気配。前に屈んでかわし、跳躍して距離を稼ぐ。再び対峙したケヴィンが、「ほう」と口を作るのが見えた。


 この攻防で、おおよその実力差は割れた。トールは相手の想定を、二段階、上げた。今の自分では、何とか付いてはいける。……といった辺りか?


 所詮は学生と軽く見られていたのが、トールに幸いした。ケヴィンは応じ手に終始し、自分からは仕掛けて来ない。


 この数分で、トールは学んだ。屈指の騎士が行う肉体操作に合わせて、より俊敏に、より力強く、トールの合理性が更新されていく。


 一転、ケヴィンが攻勢を強めた。現時点のトールであれば、これも何とか受け切れる。ギアチェンジも、想定の範囲内だった。


 最後の左袈裟を受けた後、ケヴィンが引いた。攻め疲れか?


 トールに、間を取る時間が与えられた。地を蹴り、上段に振り上げながら、目と目の中心、ぼんやりと第三の目に意識を集中させる。空間を圧縮し、時間を創造する意図。学院長にさばかれたイメージが浮かんで来たが、これは無視。


 ケヴィンの応手の構えから、罠だと察する。関係ない、スピード勝負。


 トール・ハンマー!


 肉体に感触はないが、兜を破壊し、頭部を打つ情報が伝わってきた。多少の加減は、間に合ったと思う。


……ケヴィンの目は焦点を失い、両膝をつき、ゆっくりと前方に倒れ伏した。


「勝負あり! 勝者、ト・ト・トール!」


 一瞬の静寂の後、場内が湧いた。感嘆と称賛の中に混じる悲痛な叫びは、賭けで大損した人のものだ。


「おいおいおい、まさか本当に勝っちまったぞ! ……あん、どうした? まさかお前、ケヴィンに賭けてたのか!?」


「勘弁してくれよ、ケヴィン銀行さんよ~」


 VIP席のエレナ=クラーゼンは、感嘆をもって、周囲から祝福の嵐を受けていた。軍隊や騎士団への推薦を打診する、気の早い抜け目のない者もいる。


「騎士だろうと、アレは初見では無理だろうな……」


 エレナの声に、呆れが混じる。そこにはトールの勝利への喜びより、ケヴィンへの憐憫れんびんの情が多く含まれていた。


 トール VS ケヴィンの戦いは、第一話の冒頭でケヴィン主観で描いています。今回はそれをトール視点で描き直しています。宜しければ、比較してみてください。



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