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第26話 - 4 南のパンナロッサ ~シンシアと初めての……

 ヘラグとシンシアが合流したその夜、トールとシンシアは本陣の外れで落ち合った。シンシアは色々と話をしたかったのだが、トールはひたすら戦場の心得的なものを喋り続けてしまう。ただ死んで欲しくない一心だった。


「大丈夫よ、トール。私だって何も教わらずに、いきなり来たんじゃないから」


「いや、でも……」


「それよりも、少し普通に話しましょ?」


 シンシアは、首を傾げてトールを見上げた。上目遣いに、トールの胸が高鳴る。過去、これに逆らえた試しはない。


「うん、分かった」


 二人は学生の頃のように、ただ普通に話した。カリムがトールに義理立てし、「だから今、俺はお前に告白しない!」と宣言して来て、それは告白と何が違うのだろう? と思った事。3年生の最後の最後に、ベルゼムに学院筆頭を奪取されて悔しかった事。ヘラグがいつも、トールを気にかけていた事。フレイは相変わらず、意味不明に最強である事。王立騎士団は、意外に儀式だ祭典だと忙しい事。メアリーは卒業後、軍に志願した事。


 戦場の方が、ゴードン先生が活き活きしている事。人を殺すのに慣れている自分に、違和感がある事。戦地での食事は、味覚という概念を知らない人が用意してくれている事。死が隣り合わせの環境にあると、今生きている喜びが凄い事。戦場に出てから、シンシアとの再会が、もっとも嬉しかった事――。


 あ、ここキスとかの流れだ……。シンシアは、トールの目と表情をうかがう。静かに、目を閉じる。……案の定、何も起こらない。仕方がないので、目を開ける。そこには葛藤と迷いでフリーズするトールがいた。思わず、シンシアは笑ってしまう。ここで有耶無耶うやむやになるのが、いつものパターンだったけど……。


 シンシアは軽く跳び、トールの頭を超す。空中浮揚でそこにとどまると、トールの頭を両手で抱え、唇を重ねた。


 !?


 ――抱えたまま、そっと唇を離す。半月に照らされたシンシアの紅潮に、トールは息を飲んだ。


「……まったくもう、あの状況で女の子が目を閉じたんだから、OKに決まってるでしょ!?」


「すみません……」


「それとも、嫌だった?」


「とんでもありません! あの、したいと思ったし、嬉しかったです!」


「アハハ! 何で突然、敬語になるのよ!?」


 空中浮揚を解き、シンシアは地上に降りた。


「じゃあ、久しぶりにお手合わせしてもらおうかな! 元アラド=クラーゼン学院筆頭、王立騎士団の実力を思い知らせてあげる!」


 シンシアは実剣を抜き、トールに向けた。トールも迷わず、それに応じる。


 二人はしばし、善戦のトールと藍玉蜂あいぎょくばちに返った。

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