第25話 - 4 オーシア地上軍士官学校 ~ランドルの敵愾心
トールがオーシア地上軍士官学校に編入して、1カ月半が経過した。入学当初の体力面での劣等は、既に過去のもの。現在では、校内で上位を窺うほどになった。この成長ぶりには、誰もが驚かされる。いくら肉体的な素地の高い者でも、体力はこうも容易く上がりはしない。
剣が卓越しているのは当然として、他の武器の扱いも最低限以上をこなす。モスリナ攻城戦において、様々な武器と対峙した成果である。戦闘経験に乏しい新兵も多く含む、決して練度の高い相手ではなかったが、それでも一定以上の水準にはあった。
編入当初にあったトールへの懐疑的な目は、現状では殆どない。
「自分を、トールと対戦させてください!」
山中戦実習を前に、教官に直訴する者。最上級生のランドルは、その数少ない懐疑を残す一人であった。
確かに、剣術は凄いのだろう。モスリナでの活躍も、話が盛られてはいるだろうが、嘘ではないだろう。だが自分には、兵士として濃密な訓練を積んできた年月がある。剣士あがりのトールに、実戦の現場で負けるはずはない。
特に山中戦は、解りやすい戦場とは違う。草木が生い茂り、足場も視界も悪い環境下で殺し合う。剣の腕が立つなど、大した足しにはならない。ここでトールに苦渋を舐めさせ、幻想を打ち破りたい。
「構わないが、集団戦でトールに当たれるかは分からんぞ?」
「はい、それで構いません!」
ランドルは、解りやすくトールに鋭い視線を向ける。教官も周囲の生徒も、やや呆れ顔だ。
トールはただ、意味が解らずに戸惑う。……彼はなぜ、味方である自分に敵意を向けているのだろう? トールは、ライバル心や対抗意識に、敵意を混ぜた経験がない。彼らは常に目標であり、羨望や尊敬の対象であり、共に切磋琢磨する仲間であった。
だからトールは、こう考える。気付かない内に、自分は彼に酷い何かをしてしまったのではないか? と。行き違いや誤解があるなら、晴らしておいた方が良い。
「……ランドル先輩」
「俺に話しかけるな! 実習では、お前に思い知らせてやる!」
取り付く島もなく、ランドルは立ち去る。その後ろ姿を、ポカンと見つめるトール。ポンっとトールの肩を叩く、友人となったトマス。
「気にするな。昔から、ああいう人なんだ」
「ああ、そうなんだ……」
とりあえず、トールは納得した。昔からああいう人だというなら、それがランドル先輩の普通なのだろう。
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