第25話 - 2 オーシア地上軍士官学校 ~木偶の棒と同じ
オーシア地上軍士官学校に編入したトールは、また落ちこぼれからのスタートになった。
訓練を積んだ軍人の凄さは、まずは高い基礎体力にある。斬り合う、射合うばかりが戦いではない。どれだけ早く目標地点に到達するか、移動もまた戦いの一部である。高地を取る、包囲網を完成させる、援軍に駆け付けるなど、移動速度が勝敗を分ける場合も多い。
逆に言えば、戦闘でいくら屈強であっても、必要な時に必要な場所に立っていなければ、ただの木偶の坊に過ぎない。
ここで要求される体力の質は、クラーゼン学院で要求されるそれとは異なる。平坦な道だろうと山道だろうと、太陽の照り付ける猛暑だろうと冷たい大雨だろうと、重量のある荷物を背負って歩き続けられる。試合に合わせるのではなく、常に戦える状態を維持しなければならない。
編入した時点で、トールは兵士に求められる体力を備えてはいなかった。これは戦場のみで兵士をイメージしていたトールにとって、完全に盲点であった。
――成人男性一人分の重量を背負い、トールは山道を上る。とうの昔に、速い者には置いて行かれている。周囲の4人と共に、最後尾グループにいた。
「最初だから、あまり無理しなくても良いよ。限界だと思ったら、リタイヤして」
「初回の訓練で、俺たちに付いて来られている時点で凄いと思うぜ」
「ええ、さすが英雄様ね」
静かな山道に、笑い声が響く。「……」 トールに、会話に興じる余力はない。だがトールの肉体は、背負った重量に応じた筋力増加を準備。この重量を背負って疲労状態にある運動合理性を、新たに獲得していた。
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