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瞳、大活躍

「ちょっと出かけてきますね」


 アイリさんに心配かけないよう一言断ってから行くことにした。


「それならホルスも連れて行って。幾ら治安がいいといっても若い女性が夜道を歩くのはね。ましてやマルケス商会が何をしてくるか分からないし」


 確かに正論だ。だが、ホルスさんを魔法陣まで連れて行くわけにはいかない。


「ホルスさんを連れて行ったらアイリさん一人になってしまいます」


 それに身の安全ならアイリさんの方が危険だと思う。例え家のなかであったとしても。


「……それはそうだけど」


 アイリさんもその可能性があると思っているようだ。


「それに瞳の技は門外不出ですし、いざとなったら自分の身は自分で守ります」


 えいやと投げ飛ばすふりをする。


 これでアイリさんも渋々了承してくれた。


「仕方ないわ。でもマルケス商会には気をつけてね」


 さて、どうしようか。私だって三人同時に掛かってこられたら勝てる自信は無い。と、なると周囲に人がいないか常に警戒しなければならない。


 二人が魔法で探知できるとか、サーモグラフで隠れている人を見つけるとか出来ればいいのだが、そんな便利な方法は無い。


「二人とも何かいい方法はない」


 三人寄らば文殊の知恵ともいう。それに私は二人の能力を完全に把握してるわけじゃない。


 すると、瞳は胸を張った。


「ふふふ、優様。ボクがエゾモモンガってことを忘れて貰っちゃあ困ります」


 私は、はっとなった。どうして忘れてたいのだろう、エゾモモンガ最大の特徴を。


 瞳は窓の隙間から飛び出すと近くの木の幹を駆けあがった。


 間違いない。


 窓から身を乗り出したい衝動を抑えて、空を眺める。次の瞬間、かなり暗い空を四角いシルエットが横切った。


「え……」


「なんだ今の」


 私につられて空を見上げていた二人はなんだかわかっていないようだ。だが私は分かる。


「今の、瞳ですよ」


 飛膜を広げて、尻尾でバランスをとり滑空したのだ。


 あー、これが昼間だったらっ。


 これでは暗くてよく見えないではないかっ。

 惜しい。実に惜しい。アイリさんの家なので地団駄を踏めないので我慢するが、これが私の家だったら床を踏み抜いてるね。

 後で明るい中を飛んでもらわないと。

 

 しばらくして瞳は戻ってきた。魔法によって本物のエゾモモンガ以上の滑空距離と滞空時間を得ているとしか思えない。


「戻りました」


「どうだった」


「不審な人物が5人いました。全員が商会の関係者かわかりませんけど」


「よし、オレが兵士を引き連れて職質をかける。優ちゃんはここで待っててくれ」




 程なくして、不審な人物は引き上げた。やはり商会の人間だった。ただチンピラでなくまっとうな店員であったのだ。私と取引する機会を伺っていたという口実で逮捕には至らなかったが、今度こそこそ見張っていたらストーカーとして逮捕するという警告を出してくれた。


 これで一安心とばかりに私たちは闇夜に消えた。 


 ほぼ真っ暗な中、わずかな月明かりと所々建物から零れる明かりを頼りに教会までゆっくり歩いていく。


「優様、わたくし暗いのはちょっと……」


 女の子だから仕方ないよね。


「おいで」


 冬香が私の肩に乗る。手で包んであげたり頭を撫でてあげたりしたいのだが、荷物でふさがっている両手が恨めしい。




 悶々とした気持ちを抱えたまま、しばらく歩くと教会の前にたどり着いた。


「不法侵入なんて気が引けるわね」


 はぁ~という大きなため息が零れ出る。


「夜の教会ってちょっと薄気味悪いですね」


「ボクは平気だけどね」


 こうなると選択肢は一つか。


「瞳、中に入って内側から鍵を開けてくれる?」


「でも優様」


「なあに」


「鍵、かかって無いですよ」


 瞳が難なく門を開ける。それも手入れが行き届いているのか音一つ立てずに開いたのだ。


「不用心なんだか治安がいいのか」


 ゲームの世界そのままなら治安がいいってことなんだけど。




 深夜とあって教会に入ってからは誰とも会わずに戻ってこれた。


「瞳、これどこに置いておけばいい?」


 瞳の工房がどこにあるのかが分からない。


 私が死んでからさっきまでここに厄介になっていたが、そんな場所は心当たりがない。


「そこに置いて下さい。後でボクが運びます」


「それは悪いわ」


「で、でも、ボクの工房はー、あーえーと、そう、異空間にあって人間が入るとスプラッター映画みたいなことになっちゃうんですよ。うん、多分、きっと」


 話しの内容といい、汗をだらだら流している様子といい、嘘をついているのは明白だ。だが、瞳がそこまで隠したがるということはよっぽどの理由があるのだろう。


「……後はお願い」


「優様、何かお飲み物用意いたしますか?」


 さて、どうしようか。少し眠いからコーヒー、いや、死んでから一度も口にしていない日本茶がいいかな。迷っていると扉が開いた。


「緑茶がいいわ」


 振り向けばアリアさんが和菓子の箱を持っている。


「アリアさん。おかえりなさい」


「「アリア様、おかえりなさいませ」」


「優ちゃん、それに二人ともお帰り。練り切り買ってきたのよ」


 箱を開けると、花菖蒲や花水木といった季節の花や鯉のぼりをモチーフにした練り切りが詰め込まれていた。




「食べるのが惜しいわね」


 美しい和菓子を作ってくれた職人さんに対する最高の誉め言葉かもしれない。


「それなら、私がアリアさんの分も頂くわ」


「上げません」


 お約束のようなトークが繰り広げられ一服着いたところで、これまでの経緯を説明した。その間、瞳は工房で作業しに行った。


「それは楽しそうね」


「とはいってもね。瞳に量産してもらおうかと思ったけど、材料を運んだり、ここへの出入りを見つからないようにするのは手間だから難しそうなの」


「じゃあ、どうする?」


 私は緑茶を一口啜る。


「少ない台数を高く売るなんて嫌だし、かといって販売契約を結んで前金貰ってアイリさんのお店の借金を返すとしてもそのあとちまちま作るのは……」


「向こうで、職人さんに作ってもらえば?」


 一人の少女が頭に浮かぶ。


「明日、当たってみる」


「ところで優様、明日ですが……」


「うん?」


「明日もその服と下着ですか?」


 もちろん嫌だ。格闘したりダッシュしたりで汗がしみ込んでいるに違いない。


「作ってもらっていいかな」


「もちろんです。あと今着ている服、洗濯しておきますね」


 冬香、何て良い子なのっ。



 しばらくして、瞳がドライヤーを両手で抱えて戻ってきた。


「今回持ってきた材料で作れるのはこれだけでした」


 十個も作ってくれたのは有難い。今回契約しにきた商人さん一人につき一個づつ、それで残り4つ。一個はアイリさんお店に納品するとしてあと3個か。使い道は色々あるわね。


 よし、これなら明日は凌げるかな。


 それに作りかけが1つ、ってこれは内部構造を説明するためよね。


「瞳、ありがとう。それにしても早いわね」


 この異常なスピードは一体どうなってるんだろう。やっぱり魔法なのだろうか。


「どういたしまして」


「いつあっちに行くの?」


「アイリさんが心配してるから、直ぐに帰ろうかな。二人ともいい?」


「もちろんです」


「ボクも」


 決まりだ。スマホもゲームもいじってないけどそんなことしている場合じゃない。




 私たちはすぐに戻りアイリさんの家で最初の夜を過ごした。


「優様。わたくし優様と同じ枕でよろしいでしょうか」


「ボクも優様といっしょがいい」


「もちろん、もちろんいいわよ!」


 ああ、神様ありがとう。って本当に神様の思し召しだった。

次回の投稿は未定です。遅くとも今週末にはUPしたいです。平日は執筆できるか分かりません。


感想お待ちしております。

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